第42話



 次の日。


「それじゃあ、行ってきまーす」


 そういって、美月が家を出ていった。

 ぼちぼち俺も学校に行くか、アパートを出た。


 学校までの道をのんびりと歩いていく。

 自転車も持っているが、歩く方が好きなので大体いつも歩きだった。

 軽い運動のようなつもりもあった。

 玄関で上履きを履き替えていると、トンと肩を叩かれた。


 そちらには三人組がいた。昨日もそうだが、俺のこと大好きだよなこいつら。


「よぉ、陰キャ。今日の昼休みはちゃんと貢物持って来いよ?」

「……金持ってないからな、あきらめてくれ」

「おい、あんま舐めた口きいてんじゃねぇぞ? ぶちのめされたいのか?」


 男が目を鋭くして、こちらを見てきた。

 胸倉をつかみあげられる。……めんどくせぇな。

 と、そのとき。ちょうど教師が歩いてきて、彼らは舌打ちだけを残して去っていった。


 うちの学校はそこそこの偏差値の学校だ。ガチの不良校ということではないので、所詮教師に歯向かうほどのやつはいない。

 勉強についていけなくなって、それで荒れる程度の人ばかりだ。


 俺は教室へと入ると、クラスメートの佐伯のグループがこちらを見ていた。


「……あいつ、不良に絡まれてたよな?」

「なっ、ちょうビビっていたし……やっぱり、この前のは見間違いだろ?」

「そうだよな。あんなビビりのやつと友梨佳さんが仲良いとかありえないだろ?」

「ほんとそうだよな……似ている人とかじゃないのか?」

「……確かにそれが一番ありえるよな。似ている人連れてきて、お金払って彼女ふりしてもらったとか?」

「なぁ、それが一番ありえそうだよな?」


 凄まじいことを話しているな……。

 まあ、本人だと思われていないのならそれが一番だ。

 

 ……なんだ? ポケットに入れていたスマホが震えた。見ると、美月から連絡がきていた。


『いま収録現場につきました。センパイも二度寝とかしていないですか?』


 そのメッセージの後にスタンプが届いている。絵文字で装飾が施された文章は見ていて目が痛くなるほどだ。

 

『問題ない、頑張れよ』

『頑張ります。約束、忘れていませんよね? カラオケ、予約しておきましたから』


 ラインにぺたりと画像が貼りつけられた。カラオケ店の外観と、住所ののった画像だ。

 ……駅前のか。学校が終わったあとは家に帰る予定だ。アパートからなら歩いて、十分ほどの場所だ。


 了承の返事を返していると、スマホが震えた。

 友梨佳からの連絡である。……どうしたのだろうか?


『美月と今住んでるの?』


 ……。

 なぜ、それが分かったのだろうか? 冷静に考えてみる。


 友梨佳は自分が担当したオープニング、エンディングのアニメなどでは、たまに端役で出ることがある。


 彼女の演技はかなりうまく、熱心なファンからは、声優を本業にしてほしいといわれているほどだ。


 ……もしかしたら、今日の収録現場が一緒なのではないだろうか?

 そして、美月が自慢しているとか……? ありえない話ではないだろう。


『どこからそんな話があがったんだ?』


 ある程度の予想はできた。だが、すっとぼけさせてもらった。

 まだ美月が自慢しているとも限らない。あくまで、カマをかけられているだけかもしれない。

 そう思っての連絡だったが、


『美月が画像を見せてきた。ねぇ、本当に一緒に暮らしているの?』

『……色々と事情があってな。仕事の延長みたいなものだ』

『ふーん』


 この三文字だけの返信であった。

 ……怖いんだが? ……これ、あとで友梨佳から面倒な頼みがされないかそこだけが心配だった。


 とりあえず現実逃避にソシャゲーを開く。

 美月が声を務めるキャラクターが出ているということで無理やりインストールさせられたアプリだ。


 開くと、お知らせが届いていた。


 ちょうど、美月がやっているキャラクターに関してのお知らせだった。


 近日、新衣装登場! と書かれている。


 新しいボイスもつくようだ。もう収録は終えたのだろうか? なんて考えていると、先生が教室へと入ってきて、朝のホームルームが始まった。

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