第40話


 ……そうはいってもな。


「友梨佳のときはもっと大きなベッドだったんだよ。これは二人で寝るには狭いだろ?」

「友梨佳さんとは離れて寝ていたんですか?」

「ああ、そうだとも」

「嘘ですね? 友梨佳さん、絶対近づいて寝ていたはずです。それこそ抱き枕にできるくらいの距離だったはずです」

「……ほぉ、エスパーかおまえは」

「違います私ならそうするというだけです」

「やっぱりおまえら双子だろ……」

「友梨佳さんに変なこととかしてないですよね? いえ、違いますね。変なことされていないですよね?」


 美月の、友梨佳への信頼はかなり高いようだ。

 ……隠しても追及されるだけなので、正直に話すとしようか。


「抱き枕にされたな。朝は体のあちこちがしびれていたくらいだな」

「なら、私はセンパイの全身をしびれさせます……っ」

「いじめか?」


 俺が購入したベッドはシングルよりも大きなダブルサイズだ。少し大きめのベッドで眠りたいからこれにしたのだが、何も二人で寝るためには買っていない。

 しかし、もう一緒に寝ることは確定事項のようだ。

 美月に腕を引かれ、ベッドまで連れていかれる。


 それから、ぎゅっと美月がくっついてきた。浴室で感じた柔らかな感触が押し付けられる。

 くっついて寝るとなると、別にたいして狭くは感じないな。


「あぁ……幸せですぅ。センパイと夜を共にできるんですね」

「誤解される言い方をするんじゃねぇよ。……明日は朝早いのか?」

「……そうですねぇ。とりあえず、十時からアフレコがありますので、まあそれなりに早く家を出ますね」

「そうか。俺も朝から学校だからな……」

「そうなんですね。途中まで一緒に行けますね」

「いや、まずいだろそれは」

「いいじゃないですか。外堀から埋めるって奴ですね」

「本人がそれを言うんじゃねぇよ。つーか、学校に見せつけたって、そもそも埋まる堀がないぞ?」

「そうなんですか? そんなにセンパイ……学校ではぼっち生活なんですか?」

「まあな。一人のほうが気楽だし、別にいいんだけどな」

「私もセンパイにはぼっちが似合っていると思いますね」

「……貶されてる?」

「違います。周りと仲良くしていると、きっとセンパイの魅力に気づいてしまう人がいますから。いつまでも、私だけのセンパイでいてほしいだけです」

「あー……そうか」


 独占欲の塊みたいな奴だなこいつは。


「俺の帰りは十七時くらいになるが、おまえはどうなんだ?」

「結構早いんですね、センパイ」

「まあ、こんなものじゃないか? それで帰りは?」

「うーん……明日はアニメのアフレコと、ソシャゲーの収録があるのでたぶん、二十時くらいになっちゃいますかね?」

「……わかったよ。帰りはどうするんだ? 車か? 電車か?」


 ……彼女がストーカー被害で困っている話は聞いているからな。

 一人で夜道を歩かせるのは危険だろう。


「タクシーで近くまで来ようと思っていますね」

「そうか。必要があれば言ってくれ、迎えに行ってやるから」

「一人で女装できるんですか?」

「女装はしねぇよ」

「あはは。まあ、ウィッグとヘアピンで全然誤魔化せますから大丈夫ですよ!」

「……嬉しくねぇなおい」


 俺がため息を吐いていると、彼女はくすくすと笑った。

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