第38話
アパートについたところで、ようやく俺は変装から解放された。
「シャワーどうする?」
「センパイ先浴びていいですよ?」
「分かった。それじゃあ、先入ってくる。冷蔵庫に飲み物はあるし、そこの棚にお菓子とか入っているから、好きにしてくれ」
「さすがにさっき食べてきてまた食べるってことはしません。太ります」
「別腹じゃないのか?」
「別腹にも限度がありますからね」
着替えを持って、俺は浴室へと向かう。一日の疲れを洗い流すように、しばらくだらだらとシャワーを浴びていると、洗面所に人の気配を感じた。
部屋にいるのは、美月だけなので、恐らくは美月なんだろうけど……どうしたんだろう?
トイレにでも行って手を洗いに来たのではないだろうか? 初めはそう思ったが、ふと、友梨佳のことがよぎる。友梨佳が洗面所に来たときは確か――そう思った時、こんこん、とノックされた。
「どうした?」
「入りますねー」
「いや、待て」
そう言いかけた時には、すでに遅かった。浴室が開き、そこには美月がいた。
彼女はタオルを体に巻き付け、少し照れた様子でこちらを見ていた。
……さすがの発育だ。これで高一だと?
「センパイどこ見てるんですか?」
恥ずかしそうにしながらも、彼女はタオルで包まれた胸元をパタパタと動かした。動かすたびに顔が赤くなっている。恥ずかしいならやめろっての。
俺は小さく息を吐いてから、じっと穴が開くほどに見てやった。
「わざわざ入ってきたってことは、見られる覚悟があったというわけだろ? むしろ見ないのは失礼だろ?」
「そ、それは……まあそうですけど。……それじゃあ、たっぷり……見てください」
恥ずかしそうに美月は視線をそっと外した。そうしながら、こちらにタオルを渡してきた。
受け取った俺がそれを腰に巻き付ける。
「それで、どうしたんだ?」
「しゃ、シャワーを浴びにきたんです」
「まだ俺がいるんだが?」
「い、一緒に浴びようと思いまして」
「……そうかよ。……おまえもか」
ぼそりという。
まったく、どいつもこいつも。もう少し、自覚をもって行動してもらいたいものだ。
俺が小さく息を吐きながら、彼女に背中を向ける、と。
その時、彼女が背後から抱き着いてきた。何も着ていないので、じかに彼女の柔らかな感触が伝わる。
「おい、いきなりなにす――」
マジで何考えているんだ!? 俺が声を荒らげようとすると、彼女は囁くに言った。
「……友梨佳さんとも入ったんですね。シャワー」
「……ほぉ」
しくったな、と思った。
こいつはさっきの俺のつぶやくような言葉をきちんと拾っていたようだ。いつもは抜けている奴なのに、やるな。
俺が離れようとすると、彼女はぎゅっとさらに抱き着いてきた。
「どうですか? 友梨佳さんよりは大きいですよね?」
「そうだな。確かに大きいが……」
俺が押し返そうとすると、彼女がさらにぎゅっと抱きついてきた。
「他すべてで負けても、私がセンパイの一番になるのだけは、絶対に負けたくないんですから。ですから、センパイ、私に溺れてくだひゃい!」
ぎゅっとさらに抱き着いてきた彼女は顔を真っ赤にして叫んだ
……あまりそういうのを意識しないようにしているが、滅茶苦茶動揺している。
「友梨佳にされたのは、背中を流してもらうまでだぞ? 今の一番はおまえだ、美月」
「や、やりました。それじゃあ、とりあえず背中を流しますね」
「……おう、了解だ」
俺は小さくため息をついてから、背中を向けた。
……動揺する心を押さえるように小さく息を吐いた。
こういうときは、親父に感謝だな。
幼少の頃から、俺は親父にボディーガードのなんたるかを叩きこまれた。
身体的な能力はもちろんだったが、もっとも大事な教えは――依頼主に恋をしないこと。
だから、親父に連れられるようにして、俺は綺麗な同年代の人や、あるいは芸能界にいるような年上とたびたび会ってきた。
そのおかげもあって、女性への免疫はそこらの人間よりはるかについている。
それでも、俺が耐性を持っているのは、外見や肉体的接触に関してだ。友梨佳もそうなのだが、好意を殴りつけるかのようにぶつけられ続けると、さすがに理性が削られる。
それでも、俺は深呼吸で十分に調子を戻せる程度の余裕は持っているほうだったが。
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