第37話
パフェを散々と頂いたあと、俺たちはファミレスを後にした。
「ごちそうさまでした」
「気にしないでくださいねセンパイ。泊めてもらうための支払いみたいなものですから」
「……そうか。でもやっぱりな……半分出そうか?」
「もうダメです。これでしばらくはセンパイの部屋で寝泊まりさせてもらいますからね」
しばらくだと? 奢ってもらったのはしくじったかもしれない。
俺ががっかりとしていると、美月が腕を組んできた。
「おい」
「い、いいですよね? 別に女の子同士なんですから」
「俺の股の間にはついているぞ? 見せようか?」
「な、何を言っているんですか……そ、そんなに見せたいのなら、へ、へへへ部屋でにしてくれませんか?」
「……冗談に決まってんだろ」
「でも、こうしていると堂々と一緒にいられますね。便利です、センパイの趣味」
「勝手に人の趣味に追加しないでくれるか?」
からかうように微笑んだ美月が、さらにぎゅっと腕を掴んできた。むにゅっと柔らかな感触が腕を襲う。
「おい、当たってるぞ」
「私の……武器、なんですよね。で、ですから楽しんでください。センパイなら、自由に使っていいんですから」
「……」
言わなきゃ良かったかもな。控えめながらも多少積極的になってしまった美月に、俺の疲労がたまる。
ファミレスがあった駅前から、帰宅するため歩いていく。
飲み会終わりのサラリーマンと思われる人や、ガラの悪そうな人など、たくさんの人がいる。
俺たちが歩いていると、すっと俺たちの前に二人の男が立ちふさがった。
……チャラい男たちだ。見たところ、大学生くらいだろうか? 髪は染め、耳にはピアスがついている。服も奇抜な格好をしていて、かなり目立っていた。
「なあなあ、姉ちゃんたち? オレたちとこの後どうだ、一杯いかないか?」
「見ての通りだ。こっちは高校生なんだ」
俺がちらと、美月を見ると、二人組は顔を見合わせ、興奮気味に声をあげる。
「いいねぇJK! っていか、今時そんなの気にしている人いないっしょ!」
「こいつは真面目でな。そういうの特に気にするんだよ。じゃあな」
「おいおい、そんな冷たくしないでくれよ? な? 一杯だけでいいから、奢るぜ?」
……なんでまたナンパされなきゃいけないんだろうな。
美月は愛想笑いこそ浮かべているが、そのこめかみが引くつき始めている。
「いかねぇよ。私とこいつはこの後、ホテルに行くから。じゃあな」
俺が美月の腕をつかんで引っ張っていく。すると、彼らは興奮した声をあげた。
「おいおい、女同士って寂しいなぁ。オレたちも協力してやるから、な?」
「知っているか? 百合に割り込む男はクソなんだぞ?」
「へへ、そんなこと言わずにさぁ」
無視するように歩き出したが、それでも彼らは俺たちについてくる。
……しつこいな。
人混みから離れたところで、俺が睨むと、男たちが眉間をよせる。それから彼らは周囲を見て、極悪な笑みを浮かべた。
「おいおい、あんまりなめた口きいてんじゃねぇぞ? ちょっと綺麗だからって、お高く留まってんじゃねぇぞ?」
「……」
俺が黙って彼らを睨むと、彼らは俺たちを囲んできた。
「ここはもう誰もいねぇんだ。ちょっと、ついてきてもらうぞ姉ちゃん!」
俺の手首をがしっと男が掴んで、引っ張ってきた。
「誰が綺麗だこの野郎!!」
俺は男の手首をひねるように払った。彼が驚いたようによろめいたので、その胸を軽くけった。
体勢を崩し、倒れた男に、もう一人の男がとびかかってきた。
「て、てめぇ!」
「おせぇよ!」
振りぬかれた拳をかわしながら、その背中に肘鉄をかます。
地面に倒れた彼の背中を軽く踏みつけ、起き上がった男を睨む。
「やんのか? 来いよ」
「ひぃぃ!」
男性はすっかり怯え切った様子で声をあげた。俺は踏みつけていた男から足をどけ、起き上がらせて男のほうに突き飛ばした。
「見逃してやるよ。さっさと帰りな」
「す、すんませんでした!」
男たちは慌てた様子で走り去っていく。
……まったく。俺は小さく息を吐いてから、隣にいた美月を見る。
「大丈夫か?」
「……相変わらず、バケモノみたいに強いですねセンパイ」
「そりゃあ鍛えているからな」
「今もトレーニングとかはしているんですか?」
「一応はな。もう日課みたいになってるからな」
「なるほど……。私は大丈夫です。守ってくれてありがとうございますね。それじゃあ、ほ、ほほほホテルに行きましょうか?」
「いかねぇよ。あれはあいつらが諦めると思って言っただけだ」
結果的に、意味はなかったけどな。
再び腕を組んできた美月とともに、俺はアパートへと戻っていった。
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