第36話
「友梨佳さん……凄いですよね。友梨佳さん、歌はバリバリにうまいし、声だって透き通るような美声で、演技も上手ですから。……それに、ドラマやアニメと色々と少しずつ顔を出すようになっているし、もう私とは格が違うんです」
「……さっきも言ったが、舞台が違うだろ?」
「もちろんそうですけど……でも、なんだか私、勝っているところがなくて……このままセンパイまでも取られちゃいそうで……だから、センパイに相談です」
「……それを直接本人に聞けるのは、おまえの凄いところだよな」
声優として、度胸が育っているのかもしれないな。
「教えてください。私と友梨佳さん、どちらのほうが良いですか?」
真剣な目でそう言ってくる彼女に……俺はなんと答えればよいのか困ってしまう。
……ぶっちゃけた話だ。
二人とも可愛いし、それぞれの魅力にあふれている。
それは幼馴染としての俺の意見であり、どちらかに決められるような浅い関係ではなかった。
「……まず、さっきの友梨佳に勝てないと言っていたが、それは違うだろ。おまえは声優として上にあがりたいんだろ? なら、声優たちの一番を目指せばいいんじゃないか?」
「……確かに、そうですね。それでセンパイ、私と友梨佳さん、どっちが勝っていますか?」
「……決められるわけないだろ。どっちともずっと仲良くやってきてるんだからな。……友梨佳が美月に勝っている部分はもちろんあるし、その逆――美月が友梨佳に勝っている部分もたくさんある。それだけだ」
「……じゃあ、ちなみに、私が友梨佳さんに勝っている部分はどこでしょうか?」
「……」
「あの、センパイ……今どこ見ました?」
「おまえは……控えめで、一緒にいると落ち着くな」
「あの、センパイ。さっきの目線はなんですか?」
「うるさいっ。おまえの胸に目がいかないわけないだろ!」
「い、いきなり何言っているんですか……っ! ……でも、そうですか。胸、ですか」
美月は顔を赤らめながら、どこか嬉しそうに微笑んだ。
とりあえず、落ち着いたようだな。
「……ま、そういうわけだ」
「センパイ……エッチ、ですね」
べーと美月はからかうように舌を見せた。
……その控えめな笑みに、見とれかけたが、俺は仕事中であることを思いだして、こらえた。
しばらくして、俺たちの席に食事が運ばれてきた。
まずはパスタだ。それを食べ終えたところで、続いてデザートが運ばれてくる。
大きなパフェだ。嬉しそうに美月が目を輝かせていた。
「そんなもの食って大丈夫か? 太るんじゃないか?」
「レディーになんてことを言うのですか。……これは別腹なんです。カロリーだって別腹ですからノーカンですよ」
「……凄まじい理論だ」
……俺も運ばれてきたイチゴパフェをじっと見る。
美月が食べたいといったので、仕方なく二つ頼んだのだ。
「ほら、残ったら食ってやるから好きなだけ食えよ」
すっと彼女の方にパフェを滑らせると、美月はじっと俺を見てきた。
「ふとした疑問ですセンパイ」
「どうした?」
「友梨佳さんとは、一緒に食事をしましたか?」
「一応な」
「そのときは食べさせあったりしましたか?」
「さて、どうだったか」
「したんですね……?」
「記憶にございません」
「……それじゃあ、どうぞ、センパイ」
甘えた声とともに、彼女が一口分スプーンですくった。
俺はじっと見てから、美月の顔を見る。
「食べろと?」
「上書き、です。言いましたよね? この泊まりで、私はセンパイの全部を私で上書きしたいんです。だから、食べてください」
「……へいへい」
俺は一口食べた。それから、美月が口をあけた。
……食べさせろ、ということのようだ。俺が一口とって彼女の口に運ぶ。
美月は少し照れたように微笑みながら、嬉しそうに目を細めた。
「はい、あーんしてください」
美月が再び俺のほうにスプーンを差し出してきたので、俺は仕方なく口を開いた。
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