第29話
今日も一日平和だったな。
最近では佐伯のグループに絡まれることもなくなり、完全に平和な生活となった。
……そういう意味では、友梨佳に感謝しないとな。
放課後、教室を出たときだった。……ガラの悪い三人組が待っていた。
「おい、陰キャ。てめぇ、何で昼休み来なかったんだよ」
……マジか、覚えていたのか。
俺は面倒臭いと思っていると、ちらちらと注目を集めていることに気付いた。
そりゃあ目立つな。誰も助けてくれる様子はなかった。
男が軽く肩を組んできた。
「まあ、いいや。そんでよぉ陰キャ。これからオレたち遊びに行くんだけどよぉ、おまえもどうだ?」
「そうそう。一緒に遊ばねぇか?」
「まあ、色々支払ってもらうけどよぉ」
にやり、と笑ってくる。なるほど、遊ぶというのは名目で、俺から金を巻き上げたいというところだろう。
「悪いな。別に金持ってねぇんだわ。ほら、財布見るか?」
俺は彼のほうに財布を投げ渡してやった。彼は財布を開いたが……そこにはなにもはいっていない。
「マジかよ、使えねぇな」
「……まあ、いいや。ちっ、映画でも見に行くか」
彼らは財布をぽいっと廊下に捨てた。それを拾い上げる。
「そうだ、そういえば超話題になった奴あったろ? なんだっけ? 『天使の子』だったか?」
「そうそう、天使の子! アレ見に行こうぜ!」
「おう、いいね! ていうか、あの天使の子のメインヒロインの声めっちゃ可愛いよな!?」
「でた、おまえ。若干オタクだよな」
「オタクってのは見た目が気持ち悪い奴のことを言うんだよ、オレは関係ねぇよ」
いや、そんなことないだろ。
「ああ、そうそう! なんか有名な声優さんらしいぜ?」
「うわ、詳しいなオタク」
「だから、オタクじゃねぇって! 結構色々な作品に出てるし、バラエティのナレーションとかもやってんだよ!」
「へぇ、そうか」
……いや、わりとオタクじゃねぇか。つーか、天使の子のメインヒロインって確か――美月がやっていなかったか?
「ほら、この子だよ」
不良の一人が楽しそうにスマホを男に見せていた。
「おっ、可愛いじゃんか。へぇ、なるほどね。なあ、陰キャ。こういうの詳しいんだろ? こいつって有名なのか?」
そういって、男がこちらに画像を見せてきた。
そこには美月がいた。可愛い衣装に身を包んでいる。
「……ああ、有名だな。今一番の声優なんじゃないか?」
「キモッ。やっぱり陰キャは陰キャだわ。まあでも、かなり可愛い子だなぁ」
不良たちはしばらく美月についての話題をしながら、去っていった。
……とりあえず、難をのがれたな。
不良の一人がわりとオタクという、どうでもいい情報を手に入れた俺はそれからすぐに家へと向かった。
オタク、というのは馬鹿にされるときに使われることが多いが、オタクって要はマニア、って意味だろ?
みんな何かしら好きなものがあるのだ。友梨佳は歌が好きだから、歌オタク、というわけだ。
そんな馬鹿にするものでもないと思うが。
アパートについてから、夕食をどうしようか考える。
適当にスーパーで弁当でも買ってこようか? あるいは何か作って食べるか。それでいいな。
スマホを見ると、ラインの通知がいくつか届いていた。
……あとで見ようか。
俺の知り合いたちは、一度でも既読をつけると、それから面倒なくらいに絡まれる。だから、返事をするのは就寝前と決めている。
そうすれば、『もう寝るから!』 と言って逃げられるからだ。
そんな天才的な頭脳の持ち主な俺が、エコバッグを持っていざスーパーへと向かおうとしたときだった。
ピンポーンと、ドアチャイムが鳴った。
……何かの配達か? それとも郵便とかか? ……通販で、保存の効く乾麺などをまとめ買いすることはあるのだが、最近は特に買っていなかったはずだが。
そんなことを考えながら、インターホンのカメラを確認した俺は……驚いた。
『センパイ。遊びに来ましたよ』
可愛らしい声が響いた。その耳と脳を破壊するような魅力的な声の持ち主は、『天使の子』のメインヒロイン役を務めた声優、天笠美月である。
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