第28話


 月曜日。波乱の休日を乗り越えた俺は、ようやく平和で平穏な日々を取り戻した。

 学校に来ると、くすくすとこちらを見て笑う男グループがいた。

 ……あれは、一年のときにクラスが一緒だった奴らだな。


「おう、久しぶりじゃんか、陰キャー」


 玄関で上履きに履き替えていると、そう呼び止められた。


「久しぶりだな」

「そうだ、久しぶりついでに、昼休み、購買にパン買わせに行ってやるよ」

「行かねぇよ、じゃあな」


 俺がそういうと、男は肩を掴んできた。三人が俺を囲んだ。


「おいおい、舐めた口利くんじゃねぇ陰キャが」

「そうだ、ぶちのめされたくねぇよな?」

「ただでさえその情けない顔、潰されたくねぇよな?」


 ……若干素行不良の男たちだけあって、こういう脅しまがいのものには慣れているようだ。

 俺がじーっと見ていると、彼らは肩を叩いてきた。


「昼休み、よろしくな」


 そういって彼らが歩きながら、声をあげた。


「そういえば、ニュースみたかよ!?」

「え? ざっくりしすぎだし、なんの?」

「歌姫の握手会のニュースだよ!」


 むせそうになった。歌姫とは、もちろん友梨佳のことだろう。

 友梨佳は若い子を中心に人気の出た歌手だ。今では幅広い年齢層に好かれているが、それでもやはり一番は若い子たちだ。

 高校生なんてまさにドンピシャだ。そりゃあ、話題にもなるというものだ。


「なんか、やばいことになったんだよな? 俺もニュースでみたぜ?」

「なぁ? オレがいたらあの犯罪者ボコボコにしてやったのによぉ」

「ほんとな! そうすりゃ、あの綺麗なマネージャーさんみたいに抱きつかれたかもしれないんだよな!」


 ……てめぇら、綺麗な、とかいうんじゃねぇよ。

 と、一人の男がニヤリと笑った。


「実はな……オレその現場にいたんだぜ!」


 マジで!? そのなりで握手会とか参加すんの!?


「……え!? マジ!? どうだったんだよ!?」

「すげぇ……現場に居合わせるとか、運いいなおまえ」


 運いいのか? むしろ不運では? ……いや、彼らは非日常を体験したいのかもしれない。

 ……俺も命の危険を感じるまでは似たような思考だったな。


「マジやばくてさ! いきなりやべぇ男が殴り掛かったと思ったら、ばしっと! マネージャーの綺麗な人が止めて、制圧したんだよ!」

「あー! 見たみた! 滅茶苦茶反応速度早かったな! 動画で見た時、オレ最初ドラマか何かの撮影かと思った!」

「やっぱ、マジだったのか!?」

「警察まで来たからマジだって」


 楽しそうに男が話している。……みんな、非日常な事態に興味津々なようだ。

 ……そんなに楽しいものか? 一歩間違えれば、おまえも巻き込まれていたかもしれないんだぞ?

 俺にはあまり理解できない感覚だった。


「いいなぁ……! 俺も現場に行きたかったぜ! てか、握手券いつの間に手に入れていたんだよ!」

「へへ、いいだろ!」

「うわーオタクじゃん!」

「おいおい、オタクっていうのはああいう奴だろ!? 一緒にしないでくれっての!」


 ……俺の方を見てきて、彼ら三人組がニヤリと笑ってきた。


 バカにしたように彼らが言うと、また楽しそうな笑いが巻き起こる。

 ……とりあえず、俺がそのマネージャーだったということはバレていないようだな?

 良かった……学校では地味にしておいて。これからは、これまで以上に地味に生きようと強く思った。


「てか……芸能人のマネージャーってレベル高いよな? あんなすらっとしたモデルみたいな美人とか……オレも芸能人になったら、ああいう人にマネージャーしてもらえるのかな?」

「なぁ? 俺も色々とマネジメントしてもらいたいぜー!」


 殴る蹴るのSMプレイだったらいくらでもやってやるぞ?

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