第22話


 昨日と同じ車がマンションの駐車場で待っていた。

 俺たちが乗りこむと、すぐに車は出発する。

 俺は今日一日の予定を確認していた。


「まずは会場に入りまして、そこでメイクと衣装の確認を行います」

「うん」

「それが終わりましたら、握手会が始まる前に、軽くテレビ局のインタビューを受けて、それから握手会が始まります」

「分かってる」

「握手会は一時間半に一度昼休憩があり、16時までを予定しております」

「うん」

「恐らく、大丈夫だと思いますが、実際の握手会の際には警備員が二名近くにいます。私と、雄一さんも近くで見ていますので、安心してください」

「分かった」


 ……大体はそんなところか。

 握手会の後に、軽く記者からインタビューを受けて、今日の仕事は終わりだそうだ。

 車が目的の会場に着く。


「……もう待っている人がいるんだな」

「ファンの方には、一番目に握手をしたい、という方もいますからね。そういった人たちが早くやってくるんです」

「凄まじいですね……」

「ここまでの人気になった、友梨佳が凄いということですね」


 ……だろうな。

 車はやがて会場の裏側駐車場に止まった。

 警備員がすでに待機していて、彼らに見守られるように裏口から入っていく。

 ……イベントスタッフたちは忙しそうに歩いていた。


「おはようございます」


 そんなスタッフたちに、友梨佳は笑顔とともに挨拶をしていく。


「お、おはようございます!」

「……すげぇ、綺麗なんだなぁ」

「うわ……本物のだぁ」

「おい、おまえら! 手止めてんじゃねぇぞ!」

 

 動きを止めたスタッフが怒鳴りつけられている。……みんな友梨佳に見とれていて、彼女の住む世界が違いすぎることを改めて見せつけられた。

 友梨佳に挨拶をされた人たちはみな幸せそうだな。

 

「それでは、しばらく友梨佳はメイクをしますので、雄一さんも一度休んでください。この後、しばらくは休憩が取れないと思いますから」

「了解です」


 俺は頷き、案内された控室へと向かう。お菓子とか飲み物とか色々用意されているんだな。

 それまでは自由にしていいということなので、俺は会場の地図などを見て、頭に叩きこんでいた。

 ……癖のようなものだ。ボディーガードの仕事は、依頼主の安全を守ることだ。


 それはもちろん暴漢などから守るのもそうだが、例えば災害なども対象だ。

 それこそ、火事が起きた時どのルートで逃げるべきなのか? そういったものを事前に確認しておく必要がある。


 マネージャーに、『緊急時の避難経路の確認がしたいので、会場の下見に行ってきてもいいですか?』と連絡すると了承の返事が返ってきた。

 ただ、いつ呼ぶか分からないため、連絡は取れるようにしておいてほしいとのことで、部屋にあった無線を一つ借りて身に着けた。


 会場内は電話もまともにつながらない可能性もあるからな。まだ、大丈夫だとは思っているが。

 それから、会場の下見を行い、控室へと戻ってくると、友梨佳がいた。

 ……それまでも可愛いやつだとはおもっていたが、メイクでさらに可愛さが倍くらいに膨れ上がった気がする。

 

「綺麗だな」


 メイクはもちろん、衣装もしっかりと身に着けた友梨佳は、まるで別人のようだった。


「そう? ありがとう」


 友梨佳は嬉しそうに微笑み、席に座る。

 

「もうすぐ始まる」

「そうだな。頑張れよ」

「もちろん、それじゃあ行ってくる」


 嬉しそうに友梨佳が微笑んだとき、部屋の扉が開きマネージャーが入ってきた。


「友梨佳、会場に向かうから準備してください」

「うん、わかった」


 友梨佳はすぐに歌姫としての仮面をかぶり、微笑を携え、部屋を出る。俺もマネージャーとともにその後を向かう。


 会場につき、用意された椅子に腰かける。その瞬間、カメラがいくつも光った。……テレビ局も来ているという話だったな。


 ……ちょっと、待てや。俺たちマネージャーもちょっと映っているんじゃねぇか? ……最悪だ。

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