第20話


 浴室を出て、寝室へと向かう。

 俺のベッドも用意してくれているという話だったが、ベッドは一つしかない。

 部屋に置かれたベッドは、キングサイズ……だろうか? かなり大きなものだ。


「このベッドでいつも寝ているのか?」

「うん」

「それで、俺のベッドは?」

「これ」

「これはおまえのベッドだろ?」

「二人でも寝られる」

「分かった。俺はソファで寝るかな……」


 さすがに国民的な人気を誇る歌姫様と一緒に寝るのはまずい。

 今は仕事中だからと俺も自制させているが、くっつかれ続けられたら耐えられるか分からない。


 ……第一、寝ているときに友梨佳が何を仕掛けてくるか分かったものじゃないからな。

 俺が逃げようとすると、くいくいと手首をつかまれた。


「これから二日。最高のパフォーマンスで仕事をしてもらうためにも、このベッドで休んでいてほしい」

「そいつはどうも。ただ、別に二日くらいは寝なくても最高のパフォーマンスができるように親父たちに鍛えられているんでな」


 俺の休日は、一般的なものからはかけ離れていた。

 休みのたびに森に連れていかれ、サバイバル生活をしていた。その間、父か祖父、あるいは会社の人に襲われながら生活するという生活を小学校からずっとやってきた。


 だから、いつでもすぐに最高のパフォーマンスができるようにもなった。


「でも、休んでほしい」

「なら、ベッドをもう一つ用意してほしかったな」

「そこは、ダメ。私が抱き枕にして寝たかった。大丈夫、雄一は女装が似合うから」

「今はバリバリ男の格好なんだが……」

「大丈夫」


 そういって、彼女は無理やり俺をベッドまで連れて行った。

 俺は小さく息を吐いてから、ベッドでごろんと寝転がった。


 ……ふかふかだ。まるで全身を雲に包まれているようだ。雲に包まれたことはないので、想像でしかないが、なんとなくふかふかな感じは分かるだろう。


 俺が横になると、友梨佳が電気を消した。まだ枕元にあったランプが淡く光っているので、真っ暗ではなかったが。

 それから、嬉しそうに俺の隣に並んだ。


「一緒に寝るのは久しぶり」

「……小学校の時以来か?」


 俺と友梨佳はお泊りしあう程度に家が仲良しだった。

 だから、小学校の時に一緒に眠っていた。その時は美月もいたな。

 小さい頃の美月はかなりの泣き虫だったなぁ。


 と、友梨佳はぎゅっと俺に抱きついてきた。


「でも、小学校のときとは色々違う」

「確かに、俺もおまえも大人になったな」


 俺がそういうと、友梨佳はわずかに頰を染めていた。


「うん、そういうこと。だから、色々できる」

「したら大問題だけどな。今はプロの歌姫なんだから、そこはプロ意識をもってくれよ」


 俺もプロ意識があるから手を出すような真似はしない。

 俺がそういうと、友梨佳はこくこくと頷いた。


「もちろん、分かってる。……けど、ぎゅっとするくらいはいい?」


 友梨佳がうるうるとした瞳でこちらを見てくる。その表情や仕草から、演技らしさは消えている。

 俺は小さく息を吐いてから、彼女の頭を撫でる。


「まあ、俺はおまえの兄みたいなもんだしな」

「……妹扱いは嫌」

「じゃあ、抱き枕も禁止だ」

「……ずるい」


 むすーと友梨佳は頬を膨らまして、俺にぎゅっと抱き着いてきた。

 柔らかな感触だ。

 友梨佳の身体はどこか緊張しているようだ。それは、俺に抱きついているからというよりは、明日のことがあってだろう。


 友梨佳は昔から、不安になると俺への連絡が増える。

 それでも、こうして無茶苦茶なやり方で直接会いに来ると言うことはほとんどなかったため、よっぽど精神的に追い込まれていたのだろう。

 

 俺なんかで安心できるのなら、このくらいはいくらでも受け入れてやるというものだ。

 おっぱいは小さくても柔らかいからな。

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