第12話


 次の日。

 登校した俺だったが……良かった。周囲に何か言われるということはなかった。

 佐伯たちのグループも、ちらちらとこちらを伺うように見てはきたが……誰かに言いふらしているということはないようだった。


「……昨日のアレってほ、本当なのか?」

「……いや、偽物、でしょ?」

「だって、アレと友達とか……ありえないだろ?」


 盗み聞きしてみると、噂にもなっていない理由が分かった。

 ……どうやら信じられなかったようである。

 それでいい。それなら、俺も平和に過ごせるからな。

 

 ほっと胸を撫でおろしながら、その日の学校生活を乗り切った俺は、放課後。

 アパートに向かって歩いていたところで、突然黒塗りの車が俺の隣で徐行運転を開始する。

 俺はその車のナンバーに見覚えがあり、


「雄一」


 窓が開くと、友梨佳が片手を振ってきた。……ああ、なるほど。見覚えがあると思ったら、友梨佳か。

 

「おまえ、実は暇人か?」

「そんなことはない。わりとスケジュール詰まっている」

「なのにどうして俺に会いに来れるんだ?」

「……愛?」

「いや、それより仕事優先したほうがいいんじゃないか?」

「仕事はしている。ただ、一日のスケジュールを作るとき、まず雄一と会う時間を作る」

「仕事優先したほうがいいから、な?」

「ぶい」


 ぶいっと友梨佳はピースを作って微笑む。

 友梨佳は仕事終わりなのだろうか? 今は変装をしていない。


 車がゆっくりとなる。こいつまさか、下りる気か!?


「今は変装してないんだから、下りるなって。パニックになるぞ」

「私は下りない」

「じゃあなんで車止めたんだよ」

「雄一を誘拐するため」


 滅茶苦茶物騒なことを言ってくる友梨佳。車が開き、友梨佳が席を一つずらして、手招きしてくる。


「おいでー。おやつも買ってあるから」

「……そんなガキじゃねぇんだからつられないぞ」


 俺は車に乗りこみ、彼女からポテトチップスの袋を受けとって鞄にしまった。

 車が動き出し、俺のアパートに向かって走り出す。すると、助手席に座っていた女性がこちらを見てきた。


「お久しぶりです、雄一さん」

「……ああ、久しぶりです、マネージャーさん」


 助手席に座っていた切れ長の瞳の女性が申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 友梨佳のマネージャーだ。


「……少しご相談したいことがありまして」

「……どうしたんですか?」

「その……今度の休日に、友梨佳のマネージャー補助をしてくれませんか?」

「……」


 ……マネージャー補助。

 それは、親父が良く使っていた言葉だ。

 表向きは、マネージャーの仕事の手伝いをするだけだ。


 ……だが、実際はマネージャーに扮して、友梨佳のボディーガードを務めるのが仕事だ。

 そして――これは変装を用いた仕事でもある。俺が中学時代に手伝っていた時は、いつも女装させられていた。


「……俺はもう親父とは特に関係ありませんし、そういう仕事は受けるつもりないんですよ」

「危険なことを頼むわけじゃない」

「じゃあどうしてだ?」

「私が一緒にいたいから」

「……えぇ」

「駄目?」

「……いや……とりあえず、少し考えさせてくれ」





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