第11話
「……雄一、聞いてくれてないんだ?」
未開封のままのCDを手に取った友梨佳が、頬を僅かに膨らませた。
「い、いや、聞いたぜ?」
「どこで?」
「クラスで」
「それクラスメートが歌ってるやつでしょ」
「……まあ、そうだな。でも、良い歌詞だったな」
「ふーん。聞いてくれないんだぁーふーん」
あっ、友梨佳がいじけモードになった。
俺は頬をひきつらせながら、CDを受け取り、とりあえず封を切る。すると、俺の目の前をすっと横切るようにして、美月がもう一枚のCDを前に向けてきた。
「……センパイ、私のキャラソンですが聞いてくれなかったんですか?」
「いや、まあ……それは一応聞いたぞ?」
「クラスですか?」
「いや、夢の中で」
「それ絶対聞いていませんよね!」
……仕方ないだろう。色々忙しかったんだからな。
この前、欲しかったゲームが発売して、しばらくやりこんでいたんだから。
と、がしっと友梨佳に肩を掴まれた。あっ、心読まれたか?
友梨佳がむすっとした顔をしていた。
「……私ではなく、美月を夢に出した?」
「おい、どこに嫉妬してんだよ……」
「それは癪」
友梨佳がじっと美月を睨んでいる。
「安心しろ、夢に出てきたのは嘘だからな」
「つまりまったくもって聞いてくれていないんですね」
「……時間がなかったんだ。あとで聞くよ」
CDを受け取り、封を開けながら荷物を置いた。
友梨佳と美月は軽く伸びをしてから、俺の部屋の物色を始めた。
「え、エロ本とかってどういうところに隠しているんですか?」
馬鹿め。今時紙媒体で持っているほうが珍しいんだよ。ほくそ笑む。
「パソコンの中」
友梨佳なぜ知っている!
「あっ、やっぱりそうなんですね。パスワードとかって分かりますか?」
やっぱり!?
「確か……誕生日だった気がする」
「やめてっ!」
俺は声を張りあげ、ノートパソコンを守るように立ちふさがった。
すると、二人は口元を緩めながら近づいてくる。
「センパイがどのような趣味嗜好なのか、確認したいんです。やっぱり後輩系のものが好きなんですよね?」
「いいだろなんだって」
「確認したい。そして、パソコンに保存されているものをすべて私のファイルに書き換える」
「新手のウイルスか? ほら、準備もできたし飯食いに行くぞ」
そういうと、友梨佳と美月は諦めた様子で頷いた。
すぐにアパートを出て、食事ができる店を探しに行く。
……この二人がいるとなると、ある程度落ち着いたところのほうがいいんだよな。
暗くなり始めた道を歩いていると、ぽつり、と美月が言った。
「そういえば、センパイ……最近女装はしてないんですか?」
こ、こいつ! 俺が親父のもとから逃げ出した理由の一つを指摘しやがったな!
「その言葉……次、口にしたら舌を引っこ抜くからな」
「そんな怒らないでくださいよ。センパイの変装、似合っていると思いますよ?」
だが、美月がこういうのは……俺の昔が原因だろう。
俺が親父の仕事を手伝っていた時は、性別を偽るような恰好をしていたことも多い。
その方が、万が一の場面で動きやすかったからだ。
「それ褒めているのか?」
「褒めてますよっ。センパイ、顔は整っていますからね。それに中性的顔つきですから、化粧次第でいくらでも化けるんですから」
「といっても、中学までが精々だろ? さすがに中学で身長もかなり伸びているからな。筋肉だって昔とは比べ物にならないだろ?」
昔は細マッチョだったが、今は身長も伸びたからな。もうさすがに無理だろ。
「もちろんそういった部分もありますけど、女性でも高身長の方はいますからね。十分服装で誤魔化せると思いますね」
「なんでそんな乗り気なんだよ」
「センパイの女装姿が久しぶりにみたいからです」
「うん、私も」
おまえら、こういうときばかりは仲良いんだな。
「おまえらの歪んだ性癖に付き合うつもりはないからな」
「歪んだのは、雄一のせい」
「そうですね、センパイのせいです」
横暴な奴らめ。
にこっと、二人は合わせたように笑ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます