第10話


 友梨佳を家まで連れていくことにも、若干の反対意見を抱えていた俺はせめてもの抵抗を見せることにした。


「……友梨佳、仕事のほうはいいのか?」

「とりあえず、大きな仕事は片付いている。次まではそこまで大きな仕事はないから」

「……そうなんだな。でも、ほらやっぱり家で休むのが一番だろ?」

「だから、雄一の家」

「自宅のほうが落ち着くだろ」

「雄一の家も自宅みたいなもの」

「勝手に自宅にしないでくれるか?」

「なら、許可をもらえばいい?」

「そうじゃねぇんだわ……」


 よし、無理だ。

 友梨佳の説得は無理だと分かったので、俺はスマホを耳に当てる。

 こうなれば、美月の説得をしよう。


「美月、今どこだ?」

『あっ、センパイちょうどよかった。今センパイの後ろですよ?』

「そんなメリーさんじゃねぇんだから」


 振り返ると美月がいた。彼女もマスクに眼鏡に、カツラまでかぶっていた。普段は、茶髪のショートなのだが、今は黒髪で隠れていた。


「おまえ、今日は学校じゃなかったのか?」

「はい。昼にアフレコの仕事がありましたので。制服姿のほうが見たかったですか?」

「いや、どっちでも……ただ、ほら。今日仕事だったんだろ?」

「はい」

「だったら、家でゆっくり休んだ方がいいんじゃないか? 俺の部屋じゃ休まらないぞ?」

「そ、それはセンパイが私を休ませられない状況にしてくれる……ということでしょうか?」

「何を期待してるんだ」

「え、えええっちな……」

「それ以上言わなくていいから」


 何を言い出すんだこいつは。顔を真っ赤にしていた彼女に小さく息を吐いた。こいつは友梨佳と違って恥ずかしがるからな。


「まあ、その夕食ご一緒したら帰ります。というかセンパイ……私が一緒なのはそんなに嫌ですか?」


 少し悲しそうに目を潤ませる。

 ……半分は演技なのだろうが、半分は本心だろう。


「別に嫌じゃないがな……さすがに美少女二人を連れて歩いていたら、目立つだろ」

「美少女」


 友梨佳は少し嬉しそうに胸を張る。

 そして、美月は恥ずかしそうに頬をかいていた。


「び、美少女って……センパイ、ありがとうございます」

「そういうわけで、二人はそろそろお引き取り願いたいんだが……」

「夕食食べたら帰る」

「私も同じです。安心してくださいセンパイ。私が奢りますから」

「年下にたかるほど落ちちゃいないぜ。……いくらまでいいんだ?」

「別にいくらまででもいいですよ。どんと、お任せください」


 美月はとん、と胸を叩いた。

 そこそこに豊かな胸が揺れる。……友梨佳はじろっとその胸を睨む。


 美月は胸がでかい。そして、友梨佳は普通以下だったため、それを睨んでいるというわけだ。


「……とりあえず、どこにいくにしても準備しないとだから家に入っていいぞ」

「はい、センパイの部屋見たかったですからね」


 ……久しぶりか。確かに、最後に彼女が俺の部屋に来たのは二ヵ月くらい前じゃなかっただろうか?


「そういえば、最近は暇なのか?」


 おまえら二人とも俺のところに来すぎだからな。


「暇……といわれるとあれですけど、とりあえずいくつかアニメのアフレコが終了しましたので、とりあえず以前に比べれば時間的余裕がありますね。ですから、こうしてセンパイに会いに来れたというわけです」


 友梨佳と違って照れた様子で頬をかく。

 と、友梨佳がぽつりと言葉を漏らした。


「美月、そういえばこの前のアドバイス、とても参考になった」

「それは良かったです。アフレコ、うまくいったんですか?」

「とりあえずは。ただ、叩かれないか心配」

「友梨佳さんは演技も上手ですから大丈夫ですよ」

「でも歌手なのに、声優に首を突っ込むな、とか言われることがある」

「まあ、一定数はいますよ。それを言ったら、私がオープニングとか歌うときもありますよ。誰にだって、多少アンチはいますよ」


 そんな風に二人仲良く話していた。

 うんうん、これなら俺はもう必要ないだろう。アパートについて、そそくさと一人部屋に入って扉を閉めようとすると、二人がそろって靴を割り込んできた。


「……手慣れてるな二人とも」

「ありがと」

「センパイのおかげです」


 ……まったくもって嬉しくないお礼だな。

 扉を開け、二人を中へと入れる。と、そこで友梨佳がじーっとある一点を見ていた。

 それは、美月もだった。

 二人が視線を向けていた方を見て、俺は思わず額に手をやった。


 ……そこにあったのは、二人にもらった未開封のCDだった。

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