第8話


 次の日の朝。マネージャーが友梨佳の迎えにやってきた。

 マネージャーには玄関で待っていただいた。


「……ありがとうございます。昨日は危険なところを助けてくださったみたいで」

「いえ、気にしないでください」


 マネージャーと軽くやり取りをすると、友梨佳がこちらへとやってきた。


「本当に、ありがとう。雄一がいなかったら、たぶん……死んでた」

「死んでは大げさだ……とにかく、気にすんな。ま、困ったことがあったら言ってくれ。多少は力になってやるからな」


 ……幼馴染だからな。

 友梨佳は一度目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。


「やっぱり、雄一大好き」

「へいへい。仕事頑張ってな」

「うん、またね」

「おう、また」


 友梨佳を見送った後、俺もすぐに制服に着替え、学校へと向かった。

 教室に入ってすぐ、陽キャグループの男子二人が目についた。

 彼らも俺に気付いたようで、くすくすと笑ってきた。


 ……そういえば俺、昨日嘘の告白に騙されたんだったか。

 色々ありすぎて、完全に頭からすっぽ抜けていた。

 聞き耳を立ててみると、彼らは俺のことを話題にしている。


「……ほんと、昨日の間抜け顔マジでウケるよね」

「あいつに告白するとか、罰ゲーム以外でしないっての」

「だよな? あんな陰キャオタク、マジでねぇわ」

「ほんとほんと。喧嘩もできそうにない……男ですらねぇような奴だもんな」


 くすくす、と彼らは笑っている。


「そういえば、歌姫様の新曲なんだけどさ……今回も最高だったわ! メッチャ感動したわ!」


 佐伯が目を輝かせていた。それに別の男子が反応する。


「本当な! あんな綺麗な歌声であんないい歌うたわれたら、そりゃあ感動するよな!」

「あー、あたしももし会えたらいいんだけどなぁ! サインしてもらいたいしー!」


 ……本当に人気だよな、友梨佳の奴。

 脳内の友梨佳がぶいっとピースを浮かべてきやがった。

 


 〇



 放課後。

 俺がいつものように教室を出ると、後ろから陽キャグループに絡まれた。

 数は六人。男子三人、女子三人だ。

 彼らを無視するように歩いていくが、彼らは俺の後をついてくる。


「よぉ、陰キャ」

「おいおい、無視するじゃねぇよ?」

「今日は誰が告白してあげよっか?」


 くすくす、と六人が笑いながら俺の後ろをついてくる。

 ……こいつら、実は俺のこと大好きだろ。

 無視して、すたすた歩いていき、校門を超えたときだった。男の一人が肩を掴んで来ようとした。

 

 校外ならば、色々できると思ったのかもしれない。

 そのタイミングで、一人の女性がこちらへとやってきた。


「雄一、学校終わったの?」


 聞きなれた声だ。

 今日もマスクに帽子、そして眼鏡と完璧な変装だった。


 今日は学校に行っていたようで、別の高校のものではあるが制服姿だ。

 確か、芸能活動などに理解のある高校らしく、わりと自由に休める……んだったか?

 その女性――友梨佳はすっと目を細めて、男たちの方を見ていた。

 

「……なんでここにいるんだよ」

「またね、って言った」

「今日来るとは思ってねぇよ!」


 思わず声をあげると、俺に絡んでいた男たちが苛立ったように俺を押しのけた。


「なに、陰キャ。この子と知り合いなの?」

「何? ちょっとかわいい感じじゃん、マスク外してみなよ」

「ん」


 いや、外すなよ。

 友梨佳は帽子とマスクを外してから、髪を軽くかきあげた。そこで彼らは驚いたように目を見開いた。


「あ、あかかーっぺ! ……あ、赤式友梨佳!?」

「え!? え!?」


 ……男たちが素っ頓狂な声をあげ、友梨佳を見る。

 女性三人組も感動したような顔でそちらを見ていた。

 と、男たちの顔が俺へと向いた。


「て、ていうか、え!? い、陰キャ、し、ししし知り合いなのか!?」


 驚いたように全員がこちらを見てきた。


「……知り合い、みたいなものだな」

「恋人」

「おい。嘘つくな。ただの幼馴染だ」


 俺がそういうが、それでも全員が驚いた様子だった。

 と、そこで目を輝かせていた佐伯がすっと友梨佳に近づいた。


「わ、わわわわ私……佐伯遥っていいます! あ、あなたの大ファンなんです!」

「……佐伯?」


 ぴくり、と友梨佳が佐伯という言葉に反応した。


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