第7話


 俺はギルド長に迷宮内でやられたことを伝えていった。


「ヘビーミノタウロスが現れ、俺はパラライズの魔法を使われ――」

「嘘だ! そいつが自分が犠牲になるって言ったんだよ! 普段から足手まといだからってな!」


 スパーダが叫ぶ。が、ギルド長がその頭を殴りつけた。

 ……拳骨が頭にめり込んでいる。滅茶苦茶痛そうだ。


「今は黙っていろ。おまえたちの意見はすでに聞いたんだからな」

「そ、そんなのはかんけい――あが!?」


 スパーダが再び殴られた。涙目になった彼は、ようやく口を閉ざした。


「今オレはエミルの話を聞いているんだ。わかったな?」


 言いつけるようにそういうと、スパーダはこくこくと頷いた。

 ……勇者、といってもまだ優秀な才能を持っているだけだ。

 確か、ギルド長はすでにレベル5000はあったようなバケモノだったはずだ。


 そのギルド長ににらまれれば、さすがのスパーダも黙るしかないようだった。

 それから俺は、ギルド長に事情を説明していった。

 スパーダに邪魔されることがなくなったため、とてもスムーズに話を終えることができた。


「なるほどな……おまえの事情も理解した。とはいえ、さすがに両者の説明しかないからな。今すぐに何か処罰を加えることはできないな」


 それはそうだ。実際、そういった初心者冒険者を利用した詐欺というのも一時期横行した。

 だからこそギルドは、慎重に事を運びたいのだろう。


 つまり、これ以上何か話が進展することはないのかもしれない。

 ギルド長は俺のことを信じてはくれているようだったが、一方的に肩入れをしてくれるわけではない。


 あくまで、両者の話を聞き、真実を調べるということだろう。……とはいえ、それはスパーダたちの自白しかないのだが、そんな自分が不利になることをわざわざ言うことはないだろう。


 ……まあ、もう関わってこないという約束を取り付けられるのなら、それで十分だけど。

 俺がそんな心境になっていると、ギルド長がにやりと笑う。


「おまえら全員、夜の街で遊ぶのが好きだったよな? そんでもって、酒が入ると結構やべぇ話もしているってわけじゃないか」

 

 ギルド長の笑みの理由がすぐにわかった。スパーダも理解したのだろう。顔を青ざめていた。

 ……確かに、全員自分の悪行さえも自慢話のように語る癖があった。

 おまけに、俺がそれを後日酔いが抜けたあとにそれとなく指摘すると、全員揃って「自分はそんな酒癖悪くない!」と叫ぶのだから困ったものだった。

 

「さ、酒で酔わせて虚偽の申告をさせるなんて卑怯だぞ!」


 スパーダが叫ぶ。しかしギルド長は首を横に振った。


「もちろん、一人くらいなら、な。まあ、とりあえず……夜の街には知り合いが多いからな。オレの事情を話して、それとなく聞き出してみようと思っている。まあ、全員何も言わなきゃ、仲間を置き去りにしただけの罪だ。安心しとけ」


 ギルド長はにやりと笑う。まるで、それだけで終わるとは思っていないかのような笑みだった。


「そういうわけだ、エミル。また明日詳しい話をしようじゃねぇか」


 そういってギルド長はスパーダを連れて行った。

 残された俺はちらとルーナを見た。


「……良い方向に話が進むといいですね、兄さん」

「……そうだな」


 俺たちはそのまま、宿屋へと帰還した。

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