第6話


 スパーダが暴れたため、俺はシャドーアサシンを憑霊し、その体を影で縛り付けた。

 彼はしきりに暴れていたが剣を握れない状況では彼の才能は発動しない。


 そのままスパーダを肩に乗せるようにして担いでいると、一緒についてきていたルーナがこちらを覗きこんできた。


「に、兄さん……なんだかめちゃくちゃ強くなっていませんか?」

「まあ、な。それについてはあとで詳しく話すよ。とりあえず今はスパーダたちにやられたことについて、説明しにいかないとだ。それでルーナ。迷宮から帰ってきた『ブレイブヒーロー』の奴らはなんて言ってたんだ?」


 『ブレイブヒーロー』はスパーダたちのパーティー名だ。

 俺の問いかけにルーナは顔を沈めた。


「……スパーダから直接聞いた話ですが、彼はこう話していました。『エミルは自ら志願し、オレたちを逃がすために残ってくれた』と。ギルドにもそのように報告をしていました」

「実際はパラライズの魔法を使って俺を動けなくして無理やり置き去りにしたんだけどな」

「……そんな」


 ちら、とルーナはスパーダを睨みつけた。

 スパーダはぶんぶんと首を横に振って暴れていた。口元にまで影をあてているため、彼はくぐもった声をあげるばかりだ。

 ……まあ、それを外したところで好き勝手に叫び続けるだけなので、俺はそのままにしてギルドまで歩いていった。


 ギルドが見えてきた。

 冒険者たちからの俺への注目がすさまじい。

 俺が死んだと聞かされていた人々は、ぎょっとした目を向けてきた。


 そして次にスパーダの状況を見てさらに驚いてもいた。

 ギルドの扉をあけると、鈴が響いた。むわっとした熱気が顔を包み込む。

 そしてまっすぐに受付へと向かうと、ギルド職員が驚いたように目を見開いた。


「え、エミルさん!? い、生きていらしたのですか!?」

「ああ、まあな。……俺が迷宮でスパーダたちに置き去りにされた件について話したい。ギルド長はいないか?」


 俺がそういうと、職員はちらとスパーダを見ていた。……職員の視線はどこか冷めたようなものだった。

 

「……かしこまりました。すぐにギルド長に連絡を――」

「ああ、聞いているぜ?」


 奥の部屋からギルド長が姿を見せた。

 身長二メートル近い大柄な彼は、俺とスパーダを見比べてからじっとスパーダを見た。


「詳しい話を聞こうじゃねぇか。なあスパーダ?」


 ギルド長が威圧するようにそういって、彼の体を担ぎ上げる。

 俺はギルド長に続いて奥の部屋へと向かって歩き出す。


「良かったぜ、エミルが無事でな」


 ギルド長がそういってこちらへと笑いかけてきた。


「……名前まで憶えられているとは思っていませんでした」


 俺は素直な気持ちを口にした。ギルド長と直接かかわりがあったわけではない。

 こういった冒険者の問題が発生したとき、ギルド長に話を通す必要があったからあそこで呼んでもらおうとしただけだったからだ。


「そりゃあな。いつもあんだけ勇者たちのために働いているんだからな。そういうやつの名前くらいは覚えるもんだ。職員全員心配していたんだからな」

「……そうだったんですか?」

「ああ、そうだよ。パーティー内での扱いも良くなかったみたいだしな」


 ……そこまで見られていたのか。それは少し恥ずかしいことだった。

 ギルドの通路を歩き、奥の部屋の扉を押し開ける。

 

「そんじゃまあ、ゆっくり事情でも聴こうかね?」


 ギルド長はにやりと笑って俺とスパーダを見比べてきた。


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