第5話
スパーダは心底驚いたようにこちらを見ていた。
それは当然だろうな、死んだと思っていた奴がそこにいるんだから。
「て、てめぇ……な、なんでここにいるんだよ」
顔を青ざめさせたスパーダが、こちらをじっと見ている。
……そりゃあそんな顔にもなるか。
ただ今俺はスパーダに構っている暇はない。後ろで震えていたルーナをちらと見た。
彼女もまた、俺を見て驚いていた。ただ、こちらは少し反応が違う。
驚きながらもどこか嬉しそうに目じりに涙をためてくれていた。
「に、兄さん……」
「良かった……ルーナ、何もされていないか?」
俺は振り返り、すっかり怯え切ってしまったルーナの方を見た。
微笑みかけると、ルーナもまた表情を緩やかなものへと変えてくれた。
同時に俺は思考を巡らせていた。
スパーダは女好きだ。それで、以前からルーナに目をつけていた。
……おそらく、俺が死んだことでルーナを慰め、そこから仲良くしようとしたんじゃないだろうか?
先程の下手、という言葉。そして、スパーダの普段の言動からそう当たりをつけた俺が、スパーダを睨みつけた。
スパーダは、初めこそ俺の登場に驚いていたようだったが、今は多少落ち着いていた。
「おい……てめぇ、なんでここにいるんだよ?」
スパーダが一歩距離を詰めてきた。
同時、彼が俺の体を突飛ばしてきた。
それに俺は素直に従いながら、スパーダをじっと見据えた。
「……それはもちろん、運良く生き残ったからだ」
「ああ、そうか。まあいいや。……あの迷宮でオレたちがおまえにしたことは黙っておけよ? 痛い目、みたくねぇだろ?」
にやり、と口元を歪めたスパーダに俺は眉間を寄せた。
彼は、焦りを感じているようだ。一体なにに?
……それは簡単だ。
「……おまえ、ギルドに虚偽の報告をしたな?」
「……ああ、それがどうした? 確かに虚偽の報告だが、バレなきゃ嘘じゃねぇんだよ」
胸倉をつかみあげ、首を絞めてきた。
俺はまだ、反抗するつもりはない。
スパーダにとって有利な状況であることを見せ、情報を引き出したい。
「自分にとって、都合の良いように報告したんだろ? どうせ、エミルが足止めするために残ったとかそんなこと言ったんだろ?」
「ああ、そうだよ! それがどうした!? 嘘だってなぁ! てめぇが黙って言うことを聞いていれば本当になるんだよ!」
「……ギルドに行って正直に状況を伝えてやる。あのときのおまえのやり方はギルドの規則に違反する行為だからな。最低でも罰金、最悪ならギルドカードの取り上げってところか?」
「ふ、ふざけんじゃねぇぞ! てめぇ……なに調子に乗ってやがる! 荷物持ちのエミルの癖によぉ!」
怒鳴りつけ俺の首をさらに絞めようとしてきたスパーダの手首をつかんだ。
まさか俺に抵抗されるとは思っていなかったようで、スパーダは驚いたようにこちらを見てきた。
俺の手首を振り払おうとスパーダが力を入れたが、それよりさらに力を入れる。
スパーダの顔が歪んだ。暴れだそうとした彼の手首をひねりあげた。
「あがああ!?」
……やっぱり、すでに俺のほうが彼のステータスを遥かに凌駕しているようだ。
「な、なんでてめぇがこんな力を……!!」
もちろん、彼は剣の勇者という剣の扱いには長けているが、こと今に限ってはその力が発動することはない。
彼が身をよじり、剣へと手をのばそうとしたが、さらに力を込めてその動きを制する。
「ギルドに行くぞ」
俺は冷静にそういってスパーダの体を引きずるようにして、ギルドへと向かった。
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