第8話 スパーダ視点 (エミルが地上に戻るまでの数日間の活動記録)


「みなさん初めまして、今日からこのパーティーでお世話になりますアギルと申します。あ、スパーダさん……雇っていただいてありがとうございます!」


 ぺこり、とアギルがオレを見て嬉しそうに笑う。

 彼の視線には羨望の色が混ざっており、それに気分を良くしたオレは笑みを濃くする。


 ――エミルを迷宮内で囮に使ったオレたちは、無事生存していた。

 エミルのことはギルドに報告した。

 なんて報告したか。それはもちろん簡単だ。


 『彼は、オレたちを逃がすために犠牲になってくれたんです』、と。


 涙を流しながら全員で言えば、ギルドの馬鹿どもはあっさりと信じてくれた。

 ま、エミルには感謝してほしいものだ。大した才能もなかったあいつが、実力以上の評価を受けることになったんだからな。


 エミルの無様な姿に、地上に戻ってきた日のオレたちは思いだして笑いまくっていたものだ。


 あとは、あのエミルの妹をオレのものにするだけなんだが、それはまあひとまず置いておいて今は迷宮攻略に集中しようか。


「ああ、頑張れよ。期待しているからな!」

「はい!」


 アギルは嬉しそうな声を上げた。それからオレたちは目的の迷宮へと移動する。

 ……オレが今回誘ったのは、アタッカーとして別パーティーで活躍していた男だ。

 オレたちは荷物持ちを雇ったのだが、アギルは「荷物持ちでもなんでもやるから勇者パーティーで仕事がしたい!」ということで声をかけてきたのだ。

 

 オレたちのパーティーに入りたい奴はたくさんいる。

 ……これなら、もっと早いところであの馬鹿の首を切っておけば良かったな。


「よろしくお願いしますわアギル」

「は、はい」


 にこりと微笑んだナイチアに、アギルは見とれていた。ま、この女性格は悪いが見た目はいいからな。

 アギルは中性的な顔たちをしていて、ナイチアとフエリモはさっそく目をつけたようだ。


「エミルよりも強そう」


 フエリモがアギルの体へと触れる。アギルは女性に慣れていないようで、緊張した様子でいたのだが、エミル、という言葉を聞いて彼は目を伏せた。


「……エミルさんって確か、現在封鎖中のタウロス迷宮で皆さんを守るために犠牲になった方ですよね?」

「ああ、そうだ」


 ヘビーミノタウロスが出たタウロス迷宮は、魔物の突然変異が起こるということで現在は封鎖中だ。

 オレたちは自分たちの依頼失敗による評価の低下を下げるため、ギルドには過剰に報告をしたところ、あっさりと封鎖となった。


 今はひとまず、オレたちよりもランクの高い冒険者パーティーが来るのを待っているそうだ。


「……立派な方ですよね、オレもそんな誰かのために戦える人間になりたいですね」


 アギルの言葉に少し苛立った。

 エミルなんてそんな大した人間じゃねぇぞ、と言いたいがギルドに報告してしまったため、仕方ない。

 ほんと、あの世で感謝しろよな。




 本日やってきた迷宮の攻略をはじめる。


「おい、アギルおせぇぞ!」


 オレはアギルを怒鳴りつけた。

 アギルはびくり、と肩をあげる。

 ……彼には、オレたち全員分の荷物を持たせているのだが、にしたって歩くのが遅い。


「す、すみません……」


 ちっ……。

 こいつスタミナねぇな。エミルは無駄にスタミナだけはあった。

 オレたちと同世代で活躍している冒険者だと聞いたから誘ったのだが、やはり勇者の才能を持っていない奴はたいしたことねぇな。


 アギルは荷物持ちだけで大変らしく、まったく戦いに参加することもない。

 ……これは、想像よりも使えねぇな。


 それからしばらく時間が経ち。

 ある程度攻略を進めたが、まだまだ先は長そうだったので今日はここで野営をしようということになった。


「そんじゃアギル。夜の番は頼むな」

「わ、分かりました! 交代は何時でしょうか?」

「は? おまえ、荷物持ちの癖に寝るのか?」

「……え? そ、そりゃあ人間ですから睡眠をとらないと……」


 アギルがそんなバカげたことを言ってきたので、オレは仲間たちを見た。

 ブロックとアローが呆れた様子で息を吐いた。


「おまえ……戦いにも参加していないだろう?」

「……そ、それはすみません」

「本当に何を考えているんですか? ……荷物持ちというのは食事の準備を行い、夜の番を行い、そして朝になってからまたすぐに荷物持ちを行うのが基本でしょう?」

「そ、そんなことないですよ! 荷物持ちだってちゃんと寝ないと死んじゃいますよ!?」


 アギルが意味不明な発狂をする。

 何を言っているんだか。荷物持ちというのは、オレたち冒険者のすねをかじって生活しているのだ。

 そのくらい、冒険者の面倒を見るのが当然だろうが。


「……まさか、エミルより使えないなんて思いませんでしたわね」

「見た目だけ……あとはエミルのほうがマシとか。あんな落ちこぼれ以下の奴いたんだ」

 

 ナイチアとフエリモも呆れた様子でアギルを見ていた。

 そりゃあ当然だよな。

 エミルは夜一睡もしなくても活動できていたし、荷物を運ぶときにも疲れたなんて一言も口に出さなかったのだから。


「そ、それはエミルさんが凄いだけですよ!」

「んなことねぇだろ。あいつほどの落ちこぼれをオレは知らないぜ。いや、知らなかったが正しいか。てめぇはあいつ以下なんだからよ」


 活躍しているって聞いたから誘ったのに、騙されたぜ。



 しかし、アギルは寝ずに活動していた結果、途中で倒れてしまい、オレたちは迷宮の攻略に失敗してしまった。

 いうまでもなく、アギルを解雇したのだが、ギルドからは――


「……荷物持ちの方に過度な負担をかけるのは違反行為です」

「かけてねぇよ!!」


 なぜかオレたちが厳重注意を受けてしまったのだった。

 まったく、意味が分からん。

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