第2話
「は!?」
俺は息を吹き返したように目を開いた。
それから遅れて、体がむせた。
こ、ここはどこだ?
俺はきょろきょろと周囲を見る。
……地面の血へべっとりと固まっていた。
「こ、これは……俺の血、か?」
たぶん、そうだろう。それから俺は自分の右腕が切り落とされたときのことを思い出した。
「い、生きて……いるのか? え、でも……なんで腕まで再生しているんだ?」
俺の右腕は……再生していた。間違いなく斬られたことは分かっている。だって、服がちょうど右腕部分だけ斬られていたからだ。
状況がまったくわからない。
それから俺は体を起こした。
……荷物持ちをやらされたおかげで、俺の周囲には大量の荷物が転がっていた。
それらの中から時計を取り出した。
……時間は、半日くらい経っているだろうか?
日付までは書いていないのでわからない。ただ、俺が最後にみた時間からそのくらいは立っていた。
よろよろと体を起こした。
「……とりあえず生きているんだよな? 攻撃されたのは間違いなくて……じゃあなんで生きているのか――まさか、【再生の勇者】の効果、なのか?」
俺がこうして生きているのは、【再生の勇者】以外ありえないだろう。
……これまで別に【再生の勇者】について細かい検証はしていない。
腕が切り落とされた後、再生するのかどうか……なんて恐ろしくてやったことはなかった。
……検証したのは精々擦り傷がどのくらいで治るか程度だった。
もしかして、【再生の勇者】って……死ぬほどの傷だろうとも再生できるのだろうか?
だとしたら、俺は――。
「があああ!」
そんなことを考えていると、ヘビーミノタウロスがこちらへと駆けてきた。
一体しかいなかったが、俺が敵うわけもなく、首を斧で弾き飛ばされた。
……そして、また目が覚めた。
首を落とされたほうがまだ痛みが長く続かなくていいな。
そんなことを考えながら俺はすぐに体を起こし、木々の隙間に身を隠した。
……またヘビーミノタウロスに狙われたくはないからな。
どうやら、俺の【再生の勇者】は決して使えないわけではないようだ。
とりあえず、まだ何とか地上に戻れそうだが……このまま戻るのは難しい。ヘビーミノタウロスがいるこの階層は十階層なのだが、地上に戻るには一階層まで戻る必要がある。
その道中の魔物たちだって、俺からすればどいつも格上なのだ。……あと何度死ぬ必要があるかわからない。
ならば、ここで力をつける必要がある。でも、どうやって力をつけるか……俺は転がっていた魔物の死体を見る。
ウルフの死体だ。斧で斬られているのを見るに、恐らくヘビーミノタウロスに殺されたのだろう。
俺はその死体を剣でかっさばき、心臓を取り出した。
「……魔物の心臓を食らうと、肉体の格が強化されるんだよな?」
魔物の肉を食らうと微量ながら肉体が強化される。
もっとも効果があるのは、魔物の心臓だ。
だから、己の限界に到達した人がより強くなりたいのならば、魔物の心臓を食べればいい。
……とはいえ、誰もそれを実践することはない。
魔物の心臓は人間にとって猛毒だ。魔物の持つ魔力が体を内側から破壊し、死に至る。
では、どうして強化されるという情報があるのかといえば、人体実験が行われたことがあるからだ。
その結果、稀に適応することがあるということが分かっていた。……だが、適応したからといって次に魔物の心臓を食らっても適応できるかどうかは分からない。
……俺は転がっている魔物の心臓へと手を伸ばす。
ヘビーミノタウロスたちが破壊した魔物の心臓だ。俺はその心臓へと手を伸ばし、ごくりと唾を飲みこむ。
俺がこの迷宮から脱出するには、今以上に強くなるしかない。
そして、これは大チャンスでもあった。ヘビーミノタウロスが好き勝手に暴れてくれるおかげで、あちこちに魔物の死体があるんだ。
ならば、それらを食らい、力をつけていく。……適応できるかどうかは分からない。
だが、俺は【再生】の勇者だ。仮に一度死んだとしても、時間経過で完全再生ができる。
俺はどろどろの魔物の心臓をぎゅっと握りしめ、口へと運んだ。
思わず吐いてしまいそうになる。……そもそも、生肉という時点で人間にとっては毒だ。
「おえええ!」
俺は何とかそれを飲みこんだ。気分が悪い。……そう感じた次の瞬間だった。
体の内側が痛んだ。まるで剣で体の内部から突かれているような痛みだ。
「ぐあああ!?」
そのまま俺は悲鳴をあげて地面を転がりまわる。しばらくして、意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます