無限再生の超速レベルアップ ハズレ才能「再生」のおかげで不死身になりました ～パーティー追放され、無残にも死にかけた俺は這い上がる～

第1話

「おい、エミル！　さっさと歩け！」

　迷宮を攻略中の俺は、仲間に怒鳴られ思い切り背中を蹴りつけられた。

　痛みはそれほどなかった。けど、蹴られたことに対しての怒りは僅かながらにあった。

　……けれど、我慢するしかない。

　にやにやとみてくるパーティーメンバーに、俺はため息をついた。

　……このパーティーにおいて、俺の発言力はない。

　だって、俺は最弱の勇者だからだ。

「ほんと、なんでこんな雑魚となんかパーティーを組まないといけないんだかな」

　苛立ったような顔をしてそう叫んだのは剣の勇者スパーダだ。先ほど俺を蹴りつけてきた男だ。

　この世界の人々は成人した瞬間に才能（タレント）を与えられる。

　その中でも特に優秀とされるのが〇〇の勇者という才能だ。……俺たち六人は、全員が勇者の才能を持っている勇者パーティーだ。

　スパーダは剣の達人でありながら、何よりも凄いのは彼自身がもつ力だ。

　どれほど貧弱な剣だろうが、彼が握れば名剣へとなる。それが、スパーダのもつ勇者としての力だ。

「そりゃあ、こいつが一応勇者だからだろう？　まったくそんな実力はないがな」

　ため息交じりにこちらを見てきたのは、盾の勇者ブロックだ。彼は大盾を背負っている。彼はどんな攻撃さえも封じる盾の勇者としての力を持っている。

「ほんと、いらない勇者」

　そういってフエリモがあきれたような目を向けてくる。小柄で、少女と見間違えるような容姿をしている。

　彼女は魔の勇者だ。あらゆる攻撃系統の魔法を使用できる、最強の魔法使いだ。

「ほんとうにそうですわね。こんなのがわたくしたちと同じ勇者だなんて、未だに信じられませんわ」

　ニコニコと微笑みながらそう続けたのは、癒しの勇者ナイチアだ。回復魔法などを使いこなすことができる勇者だ。

　……外では猫をかぶっている彼女は、聖女様だなんだといわれている。

　ただ、このパーティー内にいるとき、特に俺に対しては当たりが強かった。

　……まあ、俺が勇者の中でも最弱だから仕方ない。

「せめて、盾くらいにはなってくれればいいんですけどね。一応、再生の勇者なんですから」

　呆れた様子でそういったのは弓の勇者アローだ。

　……そう俺は、【再生】の勇者だ。

　能力としては、自分の傷を治すというような力なのだが、現状まったくもって使い勝手が良くなかった。

　別に攻撃力がある能力でもなければ、圧倒的な再生能力があるわけでもない。

　俺は小さく息を吐きながら、自分の能力を確認する。

　意識すると眼前に自分の現在の能力――ステータスが表示できた。

　エミル　男　１８歳

　体レベル　８０

　才能：【再生の勇者：レベル８０】

　体レベルというのは、肉体のレベルだ。魔物を狩ったり、才能のレベルがあがったりすることであがっていく。

　この再生の勇者の効果は正直言ってハズレだ。

　というのも、俺の再生は擦り傷程度ならすぐに治る、みたいなものだった。別に、そんな傷はナイチアの回復魔法で癒せるようなものなので、まったくもって意味がなかった。

　俺は１５歳になってからこのパーティで三年間過ごしてきたのだが、まだ再生の勇者のレベルは８０しかない。

　とりあえず１００レベルになれば、才能が一段階強化されるらしいのだが、戦闘力があるわけではないので、中々経験値が稼げないでいた。

　ちなみに、他の勇者たちのレベルは全員が１０００を余裕で超えていた。体レベルにしても、確か同じくらいはあったはずだ。

　……あー、俺も早く強くなりたいなぁ。

　そう思いながら荷物を持ち直していたときだった。

「……な、なんだこいつは！？」

「な、なんでここにヘビーミノタウロスがいるのよ！？」

「そ、それも一体だけじゃないぞ！？」

　突然、俺たちの進行方向に見慣れない魔物が出現した。その数なんと三体だ。

　……ヘビーミノタウロス。その名前は聞いたことがある。

　確か、Aランク級の冒険者でなければ倒せないような強力な魔物だったはずだ……っ！

「に、逃げるぞ！」

　スパーダがすぐにそう判断して声をあげる。だが、その瞬間ヘビーミノタウロスが吠えた。

　そして、こちらへと突撃してきた。

　その一撃を、いつものようにブロックが前にでて盾で受けた。

　しかし――

「ぐああ！？」

　ブロックが、攻撃を受けきれなかった。これまで、ブロックが弾かれたことなんて一度もなかった。

　その驚きが俺たちの間を抜けていく。

「ま、まずい！　全員すぐに逃げろ！」

「に、逃げるたってあんな速度じゃ無理よ！　どうするのよ！」

　魔の勇者フエリモがそう叫んだとき。剣の勇者スパーダがちらと俺を見てきた。

　嫌な予感がした。

「フエリモ！　こいつにパラライズの魔法をかけろ！　こいつを囮にして逃げるぞ！」

　やっぱりだ！

「ま、待ってくれ！　そ、それは――」

　しかし、すぐに俺の体をしびれが襲った。

「へへ、初めて役に立ったじゃねぇかエミル！」

　スパーダがそう笑みを浮かべると、

「頼んだぞ、囮」

　ブロックもまた笑う。

「良かったですわね。皆様には、素晴らしい最期だったとお伝えしますわね」

　笑顔で毒を吐くナイチア。そして、アローもまたふっと口元を緩めた。

「僕も、あなたの最後に関してだけは少し美化して伝えてあげますよ」

「うん、それじゃ。精々うまく時間を稼いで」

　最後にフエリモが俺にデコイの魔法を使った。すると、ヘビーミノタウロスたちがこちらを向いた。

　その隙に五人は逃げ出した。ヘビーミノタウロスたちは勇者たちを追うことはない。

　嫌だ、嫌だ！

　俺はパラライズによって声さえも出せない状況だった。

　目線だけを勇者たちに向ける。

　と、フエリモがちょうどこちらを見て、魔法を解除した。

　……それは恐らく、俺に囮として仕事をしてもらうためだろう。

「う、うわああああ！」

　最初にあがったのは悲鳴だ。自分でも情けない。それでも、すぐに腰に差していた剣を握りしめた。

　俺には大切な妹がいるんだ！　ここで死ぬわけにはいかない！

　そう思って剣を振りぬこうとしたのだが、

「え？」

　右腕が切り落とされていた。

　痛みに遅れて気づく。そして――ヘビーミノタウロスが持っていた斧が俺へと振り下ろされ、体が両断された。