二話 出会いの祝福


「付いていくよ。よろしく、ランジス。」

「おう、よろしく。クロガネ。」


俺はランジスに付いていく事にした。

ランジスは父を知っている気がしたから。


ランジスから懐かしい香りがした。








「それじゃ、帰るか。疲れただろ。」

ランジスはそう言って俺の頭に手を置く。

手の重みに父を思い出して身を任せそうになったが、その手を払った。

「馴れ馴れしく触るな…」

「付いていくと言ったが、必要以上に馴れるつもりは無い。」


俺の言葉にランジスはやれやれと首を降って、警戒されちゃってるねぇとぼやいた。

俺はそのぼやきを無視して歩きだそうとした。


が、ガクンと膝が折れて転びそうになる。

またランジスの腕によって支えられていた。

足を使い過ぎた。歩くにも歩けない状態になっていたようだ。


「運んでやろうか?」

ランジスが俺の目を見て言う。

…元からそんな顔なのだろうが、馬鹿にしているような顔にやはりイラッとくる。

とはいえ、自分で歩く事は出来ない状態だ。

大人しく運んでもらうしかない。





結局、ランジスに運んでもらう事になった。

店に運ばれた時と同じように肩に担がれた。

街の人々の視線が痛い。


……まさか二度もこいつに運ばれるとは。

あまりの恥ずかしさでどうにかなりそうだった。



そういえば、一体何処に行くのだろうか?

個人的にと言っていたのだから軍の施設ではないだろう。

となると、宿だろうか?

いや、この道は街から出ようとしているようだ。


ランジスは首都の入り口を通り過ぎ、何もない道を歩いていく。

街から出てどうするのだろうか?




歩く振動に揺られながら、数十分。

…疲れていた俺はいつの間にか眠っていた。




目が覚めたのは、次の日の朝だった。

かなり熟睡してしまった。こんなにゆっくり寝たのは久しぶりだ。


起きると、ふかふかのベッドに寝かされていたのに気づいた。

周りを見渡したが、ここが何処なのか分からない。


とりあえず部屋から出よう。

ベッドを降りてドアノブに手をかける。

すると、ドアの向こうから声が聞こえてくるようだ。

そっと耳をドアに近づける。


「……目立つ怪我はないよ。多分、起きたら元気になってると思うな。」

「そうか。ありがとな。………」


優しそうな男性の声と渋い低めの声。

低い方の声は多分ランジスだ。


俺の事を話してるのか?

少しドアを開けて隙間から様子を見る。


廊下に二人の男が向き合って話している。

背中を向けている方はランジスであろう。

もう一人の男は少し背が低くて見えにくいが顔が確認できる。


その男を観察する。

檸檬色の髪に緑のたれ目。

幼めの顔に大きめの丸い眼鏡。

ボロい白衣や会話から医者だと分かった。


あの男は俺を診たらしい。

自分の体を見てみると、細かい擦り傷等が丁寧に治療されていた。


お礼を言わねば。

ドラグゥエルの軍医かも知れないが、治療してもらった事の礼は言わねばならない。

これも父の教えだった。


ドアを開けて廊下に出る。

二人はこちらに気づいたようで、

振り向いたランジスがおいでと合図する。



「おはようさん。」

手を肩にポンとおいてランジスが挨拶してきた。頭は嫌がったからだろう。

「おはようございます。」

挨拶を返して肩の手を払う。

それから、視線を医者であろう男の方に向ける。


「おはようございます、クロガネ君。

僕はロニード。元軍医だよ。」

視線に気付いたのだろう。医者は名乗った。


名前を確認してから怪我の治療のお礼を言う

「怪我を治してくれたのロニードさんですよね?ありがとうございました。」

「わざわざお礼言ってくれるんだね。ありがとう。」

ロニードは嬉しそうに頭を撫でた。

…無害そうな笑顔に気を許してしまいそうになる。



「クロガネ君、お腹空いただろう?朝食作るからダイニングにおいで。」

そう言ってロニードは頭から手を離して廊下を歩いていった。



「ロニードの作る料理はいい感じだぞ」

ランジスはそう言って俺の背中を押す。

ダイニングまで案内してくれるみたいだ。


ダイニングに着くまでの間、この家を見て回った。

所々穴があいてたりとボロい二階建ての小さな家だ。窓の外は深い緑で、木々が生い茂っていた。


少しこの家についてランジスに聞いた。

どうやらここは国境近くの森の中らしい。

かなり古びていた小屋を修繕して使っているとか。

ここから王都までは歩いて40分だと言っていたが、そんなに近く無いように思う。




ダイニングに着くと美味しそうな匂いがした

そろそろ作り終えるようで、机の上にはいくつかの料理がでていた。

そして、一人の少女がその机に食器を並べていた。


「よう、おはようさん。レティ。」

ランジスが少女に挨拶する。

すると、少女もランジスに挨拶した。

「おはよう、ランジス。」


レティと呼ばれた少女は、

淡い紫の髪を腰まで伸ばしており、眠たそうな瞳をしている。

背は自分よりも小さく、

10歳あたりだろうか?

幼いながらも美しい儚げな印象をうける。


少女はランジスの隣にいる俺に気付いたようだ。首を傾げて言った。

「誰?」


ランジスはトンッと俺の背中を叩く。

挨拶しろということか。

「クロガネです。よろしく、レティ。」


レティはこくんと頷き、よろしくと答えた。

そしてまた作業に戻った。



その後すぐに、ロニーが料理を持ってきた。

朝食の準備は終わったようだ。

皆が席に座る。自分も椅子を持ってきて座った。



皆が座ったのを確認して、ランジスは言った

「ロニード、レティ。紹介する。こいつはクロガネ。これから、こいつも一緒に過ごす事になった。よろしくな。」


「改めて、僕はロニード。これからよろしく、クロガネ君。」

「レティ。よろしく、クロガネ。」

「俺はクロガネ。ロニード、レティ、よろしく。」

三人互いに挨拶をした。


「これからは4人にで過ごす事になる。ということで、今日はクロガネの歓迎だ!」

ランジスはそう言うと、コップを上げた。

そして、満面な笑みで高らかに音頭をとった

「新しい出会いに乾杯!!」

『乾杯』







こうして、俺は4人で過ごす事になった。

俺はランジスに着いていっただけなんだが…


一体あの二人は何者なのだろうか?

何で三人でこんなところで過ごしているのだろうか?


そもそも、ランジスの事もよく知らない…



急な変化に戸惑いがあるがこの選択は間違いではない気がするのだ。



何故か、そんな気がする。





開け放たれた窓から涼しい風が吹いてくる。

窓辺においてある花瓶のシロツメクサが揺れた。

ランジスとの出会いと同じように。





シロツメクサが出会いを祝福しているような

父が見てくれているような




何故か、そんな気がする。

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