第311話 タカトウの本名

 タカトウの強力なコネのおかげで、俺はジャパーネの国家元首に会えることになった。

この国は、第8勇者が魔導技術と共に帰還したおかげで技術革命が起き、その魔導技術を廻っての戦争の末に、第8勇者が統治することで戦いを治めることが出来たのだそうだ。

逆にその魔導技術を独占することで、余計な争いを防ぐことが出来たのだ。

それ以来、国家元首は第8勇者の家系、つまりタカトウ家が務めている。

それこそ、魔導技術を使用するクラスの高さが国家元首の資質となったからだ。

つまり、突然変異が起きなければ、ほとんどタカトウ家の世襲だった。


「じゃあ、行って来る」


 エリュシオンからキルトタルに移乗した俺は、屋敷を出ると嫁たちに出立の挨拶をした。


「主様、本当に護衛はプチちゃんだけで良いの?」


 サラーナが心配そうに言うが、むしろ嫁たちを連れて行く方が困るのだ。

俺一人ならば、俺の安全だけに気を遣えば良いが、嫁が来たらそちらも守らなければならない。

護衛と言いつつ、正直お荷物だったのだ。

俺はサラーナたちの気持ちは有難く受け取って、しっかり断ることにした。


 タカトウ艦と共に連れられ、キルトタルとエリュシオンは首都の地上港に向かった。

しかし、そこにはキルトタルを係留できるだけの大きさの桟橋は無かった。

そのためキルトタルはそのまま空中に停泊することになった。

その飛行甲板上に存在する森や畑に、首都警備艦隊の艦上からも好奇の目が注がれている。

さらに俺が離艦する方法が、ワイバーン騎乗なので、それも騒ぎになっている。

魔物のワイバーンが珍しいのだろう。


「ブルー、久しぶりだがよろしく」


「クワー!」


 おバカなワイバーンだが、俺の事は覚えていてくれたようだ。

魔素が無いと魔物が死滅すると言われたいたので心配だったが、この世界は魔法技術を入れたおかげか、充分な魔素で満ちていた。

ワイバーンが亡くなることもないだろう。


「プチ、捕まってるんだぞ」


「わん(大丈夫)」


「よし行くぞ!」


 俺はワイバーンに取り付けられた鞍に跨り、空に舞った。


「「「「おおーーー!!」」」」


 首都警備艦隊の艦上から驚嘆の声が上がる。

ワイバーンに乗る等、初めて見たのだろう。

俺はまるで珍獣パンダでも見るような扱いをされているようだった。


 俺は別にワイバーンに乗らなくても【転移】を使えば簡単に移動することが出来る。

しかし、この場でこの世界の人に手の内を教えてしまってはどうかと思ったのだ。

タカトウには、俺が【転移】を使えることは知られているが、わざわざその他大勢のジャパーネ人に知らせることはない。

まあ、タカトウから、この国の上層部に伝わる分には構わないが、下手に興味を持たれて接触されても困るだろう。


「ブルー、あそこの桟橋に降りてくれ」


 俺はタカトウの待つ、桟橋へとブルーを向かわせた。

そして桟橋にブルーを降ろし、その背から降りた。


「ブルー、俺が呼ぶまでキルトタルに戻っていてくれ」


「クワー!」


 ブルーは俺の言う事を理解するとキルトタルのワイバーン厩舎に戻って行った。

後でブルーを呼ぶには人には聞こえない笛を使えば良いのだ。


「呆れたな。あれこそ魔法世界から来たという良いアピールになっているじゃないか」


「そんなつもりは無かったんだが、確かにそうだな」


 タカトウに言われて初めて気づいた。

ワイバーンのおかげで、この世界の人々に俺が魔法世界の人間だという印象を強く与えることが出来たようだ。


「タカトウ、これからどうすれば良い?」


 俺がそう訊ねると、タカトウは「ああ、そういえば」と前置きをして話し出した。


「俺をタカトウと呼ぶのは、ここまでにしてくれ。

この国の上層部の人間はだいたいタカトウ姓なんだ。

俺のことは、コレムネと呼んでくれ。

タカトウコレムネだ。

この国の国家元首はタカトウコレキヨ、俺の兄になる」


 どうやら、タカトウの本名は戦国武将みたいな名前のようだ。


「わかった。コレムネ」


 思わず俺は、そんな感想を抱いたことを顔に出してしまったようだ。


「なんだ、その含みのある表情は!」


「すまん、すまん。他意はない」


 俺とコレムネが馴れ合っているのを、迎えに来た兵士が不審そうに見ていた。

いや、不審がられているのは俺だろう。

国の重鎮と馴れ馴れしく話していることを不敬とでも思っているのだろう。

確かに俺は冒険者装備姿なので、一国の王には見えない。

侮られるのは当然かもしれない。

かといって、王侯貴族の過剰装飾の服は着たくないのだ。


 その兵士の俺を侮る様子にコレムネが気付いた。


「この方は国賓である。粗相の無いようにせよ!」


「はっ! 失礼いたしました!」


 その檄の後は、俺が侮られることはなくなった。

そして、車の後部座席にタカトウと共に乗せられた。

そう、この国には自動車があったのだ。

魔法技術に機械技術も併用して発展しているようだ。

そして車は暫く走ると国家元首官邸へとやって来たのだった。

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