第312話 会談1

 コレムネの同行により、国家元首官邸への訪問もフリーパスだった。

尤も、首都警備艦隊との通信によりコレムネが根回しした結果ではある。

それが出来たのも、コレムネがタカトウ家という国家元首の一族だったためだ。

もし、コレムネが何の伝手も無いただの一艦長だったならば、こうも簡単に国家元首と会うことは出来なかったことだろう。


 厳重な警備をスルーして国家元首官邸の中に入ると、俺とコレムネは楕円形の円卓の置かれた会議室に通された。

まあ警備をスルー出来たのは、明確に武器と見える物を所持していなかったからだ。

まさか武器をインベントリに収納しているとは思っていないのだ。

いつでも武器を取り出せるし、魔法で攻撃も出来るため、事実上は武器を所持しているに等しいのだが、ポーズとしては丸腰である。

護衛のプチもただの小型犬にしか見えないしな。

まさかプチが神獣モードで巨大化出来るとは誰も思っていないだろう。


 そのプチの存在も、なんだかんだでスルーされている。

国によっては常に胸に小型犬を抱いている正装があっても不思議ではないからだろう。

それだけ俺の魔法国家からの訪問者という立場は異質なのだろう。


 俺とコレムネが円卓の右列上座に案内され腰を下ろしていると、入口ドアが開いてSPに囲まれた背広姿の男が現れた。


 そういえば、ジャパーネの人たちの衣服について何も示していなかったが、コレムネは魔法世界と代わり映えのしない服を着ている。

ジャパーネ軍の軍服というものを着ているわけではない。

これは転移門ゲートの先の世界を訪問するためのものらしく、楽なので儀礼的な場以外はこれで通しているらしい。

国家元首と会うのに、そのままというのはどうかと思うが、これも兄弟故のことなのだろう。

尤も、俺の格好も儀礼的には褒められたものではない。


 警備の者たちは地球で言うまさに警備会社の制服のようなものを着ている。

そして、SPや国家元首であるタカトウの兄コレキヨは背広姿だった。

これは元々ジャパーネが地球の日本のような世界だったところに、魔法技術が入った結果の文明であり、地球との類似は平行世界故ということらしい。


 俺は一応国王であり国家元首と同格なので、座ったまま出迎える。

コレムネも兄弟故の気軽さからか座ったままだ。


「お待たせしてすまない。

私がジャパーネの国家元首、タカトウコレキヨだ」


 コレキヨ元首が俺に歩み寄り、握手を求めて来た。

さすがに平行世界、握手という文化も同じらしい。

国家元首という肩書も総理でも国王でも大統領でもなく、元首なのだそうだ。

民主主義の上に、その個人資質による魔法技術の支配者であるがために国のトップとなっているという立場なのだ。


「キルナール王国国王、クランド=ササキ=キルナールだ」


 俺はこれにより初めて立ち上がると、コレキヨ元首の手を取り握手した。

いろいろ国の格がと面倒なことがあるのだ。

嫁からは国王としての品格を持てと散々言われている。

その小言の成果が少し出た感じだ。


「ワイバーンを見させてもらったよ。

本当に魔法世界からの訪問なのだな。

それとササキとは聞き慣れた名前だが、召喚勇者ということなのか?」


 コレキヨ元首は魔法世界に興味津々という感じだった。

そして、俺の正体に関する核心をいきなり突いて来た。

たしかにササキという名前は魔法世界からしても異質だろう。

ジャパーネが平行世界故にコレキヨ元首にも聞き慣れた響きとなったのだ。


「俺は召喚ではなく転生になる。

一度死んで魔法世界で身体を得たパターンの勇者だな」


 まあ、それぐらいは教えて構わないだろう。

どうやら、勇者という立場には敬意を払っているらしいからだ。


「なるほど」


 そう言うと自然と握手の手を放し、コレキヨ元首は俺たちの対面の椅子に移動した。

コレキヨが手ぶりで着席を促したので、俺とコレムネも座る。

同時にコレキヨ元首も座った。

SPが常に彼の後ろをキープしている。

会議室の四隅にもSPが待機しているが、おそらく胸に銃器を忍ばせているのだろう。


 召喚勇者の下りは会話の糸口の世間話だったようで、それ以上は話を掘り下げることはなかった。


「さて、興味深い話はいくらでもあるのだが、MAOシステムに関する緊急の話ということなので、本題に入らせていただく。

それと関係各所の者を同席させたい。よろしいか?」


「どうぞ」


 MAOシステム案件となれば、直ぐに動く必要があるため、コレキヨ元首は関係各所の者にも直接話を聞かせたいという。

それは俺も承諾しないわけにはいかない。


 俺の承諾により、5人ほどの閣僚が入室し、円卓左側の席に着席した。

防衛大臣とか、魔法技術庁長官だとか、財務大臣だとかの役職名だけ聞いて自己紹介は端折られた。


「コレムネ、手短に説明を」


 コレキヨ元首は、俺にではなくコレムネに説明を求めた。

どうやら、コレムネが全ての事情を知っていると見て、ジャパーネ側から見た俺の提案を訊きたかったというところのようだ。


「俺たちの艦隊はMAOシステムに破れた」


「なんと! 第3任務艦隊が破れたのか!」


 防衛大臣が口をはさむが、コレキヨ元首の一睨みで黙り込んだ。

ここでいちいちリアクションに答えていたら、進む話も進まないからだろう。


「そして、逃げ込んだ先がクランド王の世界だった。

その世界はオリジナルだった」


 そのオリジナルという言葉に会議場の全員が息をのんだ。

それほどオリジナルとは衝撃的な話だったようだ。


「神が勇者を転移転生させる先の世界、それがオリジナル世界だというのは、先祖から齎された伝承にもある。

つまり、クランド王の存在がオリジナル世界の証拠だ」


 先のコレキヨ元首の召喚勇者かという問いかけは、自分たちと同じようなオリジナル世界から帰還した勇者の世界の者かという問いかけだったのだ。

まさか失われたオリジナル世界と繋がるとは思っていなかったのだ。


「そこには生きている生産施設があった。

俺はジャパーネのために、それを奪おうと思ってしまった」


「!」


 コレムネによるオリジナル世界侵略の告白だった。

つまり、俺、クランド王が、その賠償を請求するために来ているのかと、皆が思ったようだ。

財務大臣と紹介された男の顔が青くなる。

防衛大臣は、交渉決裂の後を考えたのか思考の海に埋没したようだ。

一気に空気が悪くなるのを感じる。

こら、コレムネ、俺から恩情を受けた話をさっさと言え!

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