第294話 通信会談

『こちら、第6ドックから通信中のタカトウだ。

第8勇者の国の者と言えば通じるだろうか?

キルナール王との直接会談を願いたい。

こちらに戦う意志は無い』


 第6ドックの電脳から報告があった陸上艦の持ち主から接触があった。

どうやら、第6ドックの通信設備を彼が主導して修復したようだ。

裏で電脳から、タカトウなる人物の顔の映像や行動記録が送られて来ていた。

まさかタカトウも、電脳がそんな行動を取っているとは思ってもいないのだろう。


『リーンワース王国の艦と戦闘状態に入ったと聞いているが?

それで戦う意志が無いとは思えないのだが?』


 これも第6ドックの電脳からの情報だ。

さすがにリーンワース王国からはまだ報告が上がって来てはいない。

たぶん3日後ぐらいに伝わってくれば良い方だろう。


『それは攻撃されたので仕方なく反撃したのだ。

リーンワース王国の艦とは通信を試みたのだが、返答が無いうちに外部スピーカーで罵られ、ガイアベザルの者と誤解されて攻撃を受けてしまったのだ』


 あー、リーンワース貴族あるあるか。

また陸上艦の指揮官が本国に確認もせずに勝手な行動を取ったんだろうな。


『反撃しなければならなかった理由は理解した。

しかし、魔導砲を撃たれれば、それは恐れても仕方がないだろう』


 タカトウの陸上艦が魔導砲を威嚇発射したことも把握している。

それにリーンワース王国側が恐慌状態となっただろうことは容易に想像できる。

リーンワース王国にとって、魔導砲は脅威そのものなのだ。

これも俺が廉価版の陸上艦しか渡さないせいだろうな。


『対応を誤ったことは反省している』


 まあ、どっちもしくじった不幸な遭遇戦だったのだろう。

これをどう収めるのかが彼の本領発揮というところだろう。


『それで会談とは何を求めている?

この通信だけでは実現出来ないことなのか?』


『いや、第6ドックの修理施設、その使用許可を得られればこの通信だけでも良いのだが……』


『顔を合わせなければ信用も得られないから、直接会談が必要ということか』


 つまり、俺の問題を考慮したということだろう。


『察しが良くてありがたい』


 電脳によると、第6ドックはガイアベザル帝国の者に、執事マスターゴーレム、警備ゴーレム、作業ゴーレムを悉く破壊されてしまったらしい。

そのゴーレムを修理しない限り修理施設も動かせない作りとなっている。


 電脳によるとタカトウは陸上艦を運用し、通信施設も修理可能な技術を持っている。

タカトウの権限レベルがクラスBだったために、クラスSの俺が第6ドックを支配出来たが、知らずに居たら第6ドックの全てをタカトウに奪われていたところだった。

そこで施設の全ての機能を利用されていたら、話合いなどということにはなっていなかったかもしれない。


『解かった。そちらに向かおう』


『呼び立てるようで済まない』


 まあ、タカトウに第13ドックまで来られても困る。

身の危険も感じるが、俺も魔導の極みでそこそこ強いつもりだ。

常に対魔法対物理の魔法障壁を張ることも出来る。

不意に襲われたとしても対処可能だろう。

なんだったら、【転移】で逃げることも出来る。


「セバスチャン、第6ドックの管理機能を代替出来るゴーレムはこちらにいるか?」


「メイドゴーレムならば可能でしょう」


 あいつらか。

ならば陽葵ひまりでいいか。


「よし、第6ドックに向かおう。

エリュシオン以下、5艦でタカトウの艦を囲む。

目標第6ドック、ワープスタンバイ」


「第6ドックの座標確認。上空100mにワープします」


「よし、ワープ!」


 5艦の陸上艦の前に5つの転移魔法陣が浮かぶ。

そして、そのまま魔法陣を突っ切るように5艦が進むと、艦首から消え去って行った。

俺の体感だと、目の前の転移魔法陣を陸上艦が突っ切って進むと、その先は違う空の下に居たという感じだ。

これって転移門ゲートと似た感じではないだろうか。


「ワープ成功」


 まあ、無人艦と動物で実験済みなので、大丈夫なのは確認済みだ。

元々転移魔法でやってることなので、何も心配はいらなかったんだけどね。


「艦隊はタカトウの艦を警戒せよ。

砲塔を向けて良い。

俺はタカトウに会って来る。

陽葵ひまりは一緒に来い」


「ほーい」


「お待ちください。

せめて警備ゴーレムも連れて行ってくさだい」


 たしかに、一応俺って王様なんだよな。

Tシャツにデニムだけどさ。


 ◇


「なるほど、勇者の血がこの施設の管理権限となっているのか」


 俺はこれでも異世界転生者だ。

もしかすると勇者認定されるかもしれない。

俺は、タカトウの目を盗んで、こっそりシステムコンソールに近付いた。

そしてスキャナに手を当てて静かに宣言した。


「勇者として、権限の開示を要求する」


 すると掌がスキャンされ、一瞬掌にチクりと痛みが走った。

どうやらDNAを採取されたらしい。


『あなたをクラスA管理者と認定します』


「やったぞ。俺はタカトウよりも上の権限を有している」


『管理者登録を行ないます。

お名前を登録してください』


「俺の名はフリードリヒだ」


『登録完了しました。

フリードリヒをクラスA管理者と認めます。

ただし、この施設はクラスS管理者クランドの指揮下にあります。

あなたの権限は制約下にあり最小限となります』


 なるほど、クランド王さえ居なければ、俺がここの最上位管理者ということか。

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