第295話 悪意ある存在

 陽葵ひまりを連れて第6ドックに転移した。

第6ドックの電脳からは、使用可能な転移魔法陣の存在が伝えられていたからだ。

もし、罠があったとしても、これならば裏をかくことが出来るだろう。


 転移した先は、第6ドックの指令室だった。

普段ならば執事ゴーレムが待機している場所だ。

その指令室の窓から外を覗くと、タカトウたちが、思い思いの砕けた姿勢で寛いでいた。


 それから、兵の一人が慌てた様子になり、何かを話すと、彼らは立ち上がると壊された隔壁の方を向いた。


 どうやら、俺たちの艦がやって来たことの報告を受けたということだろう。

たぶん、俺たちの到着が想定より早すぎたのだ。

何しろ一瞬で移動できるワープだったからな。

それに困惑している様子が伺える。


 タカトウと部下たちは武器も構えておらず、俺たちを騙し討ちする気は無いようだ。

部下たちが慌てているのは、どうやら艦と連絡が取れるようで、俺たちの艦隊に艦が囲まれ砲を向けられてるという報告受けたということだろう。


陽葵ひまり、この施設を掌握できるか?」


「もち大丈夫だよ」


 陽葵ひまりは、システムコンソールに手を置くと一瞬のうちに制御を奪った。

その支配はこの第6ドックの電脳にも及んでいた。

これってセバスチャンよりも性能が上か?

俺はとんでもないものを作ってしまったようだ。


「彼らを遠隔で調べられるか?」


 俺はタカトウたちの集団を指差して陽葵ひまりに訊ねた。


「鑑定で敵か味方かってこと?」


「そうだ。悪意の有無を調べたい」


「うーん」


 陽葵ひまりが唸りながら鑑定を行なった。

この鑑定、対象のアカシックレコードにアクセスするようで、悪意や犯罪歴などが丸わかりなのだ。


「一人悪意を持ってるのがいる。

他は不安に思ってるだけみたい」


「その悪意あるやつを徹底マークだ」


「ほーい」


「そろそろ会談に向かうとするか」


 俺は、この場を離れて、タカトウたちとの会談に臨むことにした。

その道中、悪意を持つ男の正体が丸裸にされていた。


 ◇


 タカトウたちの後ろから俺とゴーレムたちが現れると、タカトウは驚きの表情を見せた。


「いつ?」


 タカトウはそう言うのが精一杯だった。


「先程到着した。

上には陸上艦が来ている」


「それは報告を受けたが……。どうやって我々の目に付かずに後ろに?」


 どうやら人が転移して来ることには慣れていないようだ。


「それは秘密で」


「りょ、了解した」


 タカトウも訊いてはいけないことかと焦ったようだ。


「向こうに席を用意した。

向こうで座って話そうか」


「同行は、2人までかな?

ならば、こいつと……こいつで」


 タカトウが選んだのはキサラギとフリードリヒだった。

陽葵ひまりが俺の脇腹をつつく。

どうやらフリードリヒが悪意ある人物らしい。


「そちらの御仁は帝国の者だろう? ご遠慮願いたい」


「そ、そうか」


 タカトウはフリードリヒの同行を断られたため混乱したようだ。

彼だけがジャパーネの者ではないことを俺が知っているということが理解不能なのだろう。


 タカトウはもう一人の同行は諦めたようだ。

別に誰か他の者を連れて来ても良かったのだが、彼らが武装していることを嫌ったようだった。


「俺がキルナール王国の王、クランドだ」


「俺はジャパーネの陸上戦艦艦長のタカトウです。

第8勇者の国の者です」


 訊いてはいたが、彼らは第8勇者が帰還した国の関係者らしい。

友好的に行きたいのだが、彼らは同盟国と交戦をしている。

その真意を確かめるまでは友好的な態度はとれなかった。


「それで? どうして施設を使いたい?」


「それは……」


『魔力バーストの予兆を確認しました』


 その時第6ドックの電脳が警告を発した。


「俺をこの施設ごと吹き飛ばすつもりか!」


「違うんだ、誤解だ、我が艦は第2魔導機関が不調で修理施設を探していたのだ。

転移門ゲートが繋がる先には、必ず祖を同じとする文明があるはずだと思っていた。

それが我らと共通技術の賜物であるならば、修理施設が存在していると思い転移門ゲートを越えてこちたに来たのです」


「ならば、速やかに魔導機関を止めて暴走をさせるな」


「しかし、砲を向けられては……」


「俺たちの土地を侵犯しているのだ、それぐらい我慢してもらおうか」


「承知した」


 まあ、撃たれないと思えれば文句も飲み込むことだろうな。

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