第286話 第6ドック

Side:トラファルガー帝国


 我が国の第2ゲートのある東大陸北東部から西大陸北西部に向かうルートは限られている。

東大陸と西大陸の間は、西側が近く、東側が大陸一つを優に超えるほどに遠い。

その東側ルートは戦艦の航続距離でも届かない距離であると同時に、そこは海洋性の魔物の巣であり、例え航続距離が届いたとしても安全な航行は妨げられていた。

一説によるとその中央には大陸があると言われているが、その存在はお伽噺レベルであり正式には確認されていない。


 西側の海は帆船レベルの航海術でも届く距離であり、東大陸西側にあるバイゼン共和国は西大陸と交易をしていた。

我が国は東大陸の東側にあるため、西の海を利用するためには、大陸の南端を回って、途中の寄港地で補給を受けながら陸伝いに進出するしかなかった。

そこでやっと接触した西大陸の国がキルナール王国だった。

キルナール王国の輸出品は食料が主であり、我が国としては輸送期間の問題からあまり欲しいものではなかった。

我らが欲したのはキルナール王国の進んだ武器だけだった。


 西大陸と距離的に一番近いのは惑星の極地を通過して向こう側に行く北極ルートだ。

惑星は球体のため、同じ北の大地に向かおうと思えば、極地を通過するのが一番近い。

この考え方はこの世界には無いものだった。

東側ですら、その先に行けないのは、そこで世界が終わっているからという認識の者が大多数だった。


 その北極ルートだが、我が国の戦艦では氷に覆われた海を通過することは不可能だった。

だが、ゲートから出て来たタカトウ率いる陸上戦艦は、空中に浮遊し空を飛べるのだ。

そのため、旧ガイアベザル帝国にあるという陸上戦艦の修理施設まで、北極ルートで向かうつもりらしかった。

これら進んだ技術に文明、俺のような転生者がいるべきなのは、彼らの世界だったのだ。


「俺を同行させてくれ。まだゲートの補償は貰っていなかったよな?

ならば、その補償に同行を加える!」


 俺は自分でも無茶を言っていると思っていた。


「別に構わないが」


 なんとタカトウは同行を簡単に認めてくれた。


「タカトウ、そんなに簡単に決めてしまってどうするんですか!?」


 しかし、横やりが入った。

タカトウに同行していた女性だ。


「キサラギ、この世界のことを知る案内人は必要だと思わないか?」


「それはそうですが、セキュリティはどうするんですか?

あまり現地人に見せない方が良いものが沢山あるんですからね?」


 なんかバカにされている気がする。


「構わない」


 ああ、たぶん見ても解らないだろうと思ってるな。

残念でした。俺はこれでも転生者なんで、いろいろ解っちゃうんだな。

現地人とバカにしたことを覚えてろよ。



 ◇  ◇  ◇



Side:クランド


「第6ドックに通信は可能か?」


「だめですね。あの受諾信号がやっとだったようです」


 どうやら通信不能、あるいはこちらの通信を受信出来ても、向こうから発信出来ないようだ。

それがマスターコードという最上位の命令が来たものだから、必死に回答したということらしい。


「あー、こちらからは拒否の信号を送っちゃったんだよね?」


「はい。

しかし、マスターコードの要求には答える義務が発生していました」


 仕方なかったってことか。だが、それは……。


「こちらの存在もバレてるってことじゃん」


 正解は無視だったのかもしれないが、それが出来なかったのか。

拒否の信号により第13ドックの存在が露呈してしまい敵対したと思われたかもな。


「マスターコードの権限階位クラスBって、まさかガイアベザル帝国の生き残りか?」


「マスターコードは勇者の血筋にしか使用できません。

権限階位クラスBは、勇者そのものである可能性があります。

ちなみにガイアベザル帝国の最高権限階位はクラスCだったはずです」


 そのクラスCでさえ、ガイアベザル帝国では奇跡と称されたらしい。


「嫌な予感しかしないな。

第6ドックは、リーンワース王国の占領地にある感じだよな」


「第6ドックの位置情報は「皆まで言うな」はい」


 備品を回収されているだろうとはいえ、敵対組織が第13ドックと同等の施設を手に入れるのは面白くないな。

もし、回収されていなかった場合、かなりの脅威と成り得る。

しくじった。今からでも遅くない。第6ドックを奪取するべきか。


「第6ドックにマスターコードで命令、クランドの指揮下に入り、クラスB管理者の行動を制限せよだ」


「送信しました。受諾信号ありません」


「拒否信号もないんだろ?」


「はい」


 つまり、受信していても返事が出来なかった可能性も残されたということだ。

これが受信まで力尽きていたら、謎の存在に第6ドックを支配される可能性がある。

それが敵対して来たら本当に面倒だ。

敵の正体が勇者ならば、ガイアベザル帝国の関係者かもしれないのだ。

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