第287話 その裏では1

Side:リーンワース王国


 ガイアラン帝国が使用していたガイアベザル帝国の遺物は粗方接収することが出来た。

その中でも特筆すべきものは、やはり大規模な遺跡の存在だろう。

西大陸北の大地北西部でみつかったその遺跡は、その中身をほとんどそのままの姿で接収された。

おそらく発見されてから日が浅い遺跡なのだろう。


「陸上戦艦は持ち出された後のようだな」


「ガイアベザル帝国が運用していた陸上戦艦は、このような形で手に入れていたのですね」


 それは略奪と言ってよいものだった。

施設を警備していたと思われるゴーレムは破壊され、閉まった隔壁も爆破により穴が開いていた。


「修理整備の出来る施設を期待していたが、これでは動かせそうもないな」


 それは権限クラスが低いため、命令出来なかったガイアベザル帝国の調査兵団団長イオリが管理ゴーレム執事を破壊してしまったからだ。

この施設を生かすには、クランドが管理ゴーレムを第13ドックで製造し派遣する以外にはない。


「キルナール王国のクランド陛下に協力を依頼しては?」


 その時、施設内に人工的な声が響いた。


『権限クラスBのマスターコード受信、受け入れを受諾しました』


『受諾信号発進、機材が壊れたようです。

ゴーレムに修理を依頼。

管理者は修理ゴーレムを起動してください』


「おい、この遺跡、生きてるぞ!」


「どうやら、壊れている部分があるだけのようですね」


「ゴーレムはどこだ?」


「みんな壊れてますね」


「クランド陛下に頼んでゴーレムを派遣してもらうしかないか……」



 ◇  ◇  ◇



Side:タカトウ


 MAOシステムとの交戦で傷ついた艦で転移門ゲートを潜ったが、我が艦だけしか脱出に成功しなかったようだ。

我々は故郷であるジャパーネからMAOシステムを殲滅するために覇権された艦隊だった。

転移門ゲートにより移動し、その先のMAOシステムを破壊して回る。

それが我らの任務だった。


 脱出先の座標は定まらなかったが、急に引き寄せられるように座標が固定された。

そこに侵入出来たのは我が艦だけだった。

そして、転移門ゲートを取り巻く周辺には人の姿があった。

転移門ゲートを使用出来る文明人ということだろう。


「おお、人がいるぞ」


「駄目です。転移門ゲートが閉じました」


「こちらの転移門ゲートの電力不足か?」


 その声がこだまとなって帰って来た。


「おい、外部スピーカーがONだぞ」


「ああ、何やらかしてるんですか!」


 キサラギがスイッチをOFFにしたが、声は完全に漏れてしまった後だった。


「まずいぞ。文明人との接触は避けろと本国ジャパーネ政府から言われていたのに」


「仕方ありません。転移門ゲートを使用しているからには勇者所縁の文明人だと想定して接触するしかありません」


「それしかないよな。あの戦艦、こちらを破壊出来そうな大砲を積んでるもんな」


 転移門ゲートはなぜか運河に繋がっていた。その先には転移門ゲートに向けて大砲を照準している戦艦が運河に浮かんでいた。


「たしか、我々の祖は第8勇者と呼ばれていたんだったよな?」


「はい。それが通じると良いのですが」


「じゃあ、声をかけるか」


「外部スピーカー、ONにしますよ?」


「やってくれ」


パチッ


 キサラギがスイッチを入れた。


「あーあー、聞こえますか?

こちらはジャパーネの戦艦です。

第8勇者の故郷の者と言えば通じますか?」


 しばらく沈黙があり、豪華な服を着た人物から回答があった。

外部音声をマイクで収集していたから良かったものの、それはスピーカーも使わず怒鳴るものだった。


「話を訊ねたい。交渉の場を設定させていただきたい」


「了解した。そちらに伺おう」


 ありがたい。話の通じる文明人だった。

しかも敵対国家ではないようだ。

第8勇者と呼ばれた祖は、とある世界の王国に召喚され、奴隷のように戦わされたという。

その国から脱出、敵対し転移門ゲートを開発してやっと帰還出来たらしい。

その際に最大の敵となったのがMAOシステムだった。

これは、その王国に召喚された別の勇者が、自分以外の勇者を殺すために造ったものだった。

俺たちの任務は、転移門ゲートシステムを奪い追って来たMAOシステムを殲滅することだった。

その戦いが千年続いているという。


 ◇


 どうやらこの世界もMAOシステムの脅威に晒されたらしい。

となれば、協力体制を築ける可能性が高い。

あまり伝承が伝わっていないようで第8勇者は知らないようだが、勇者は西大陸で召喚されたということは確認出来た。

どうやら、ここの転移門ゲートはオリジナルのようだ。

西大陸には修理ドックが存在しているかもしれない。

MAOシステムにアドレスを知られたとなると、この世界に侵攻して来る可能性があった。

我が艦を修理し、たった1艦であっても対抗しなければならない。


「我らは、その西大陸に向かう」


「そうか。くれぐれも戦闘状態にならないようにな。

キルナール王国は強いぞ」


 この皇子、なかなか口が軽い。

どうやら、キルナール王国が西大陸の覇者のようだ。

ならば、勇者召喚した国の後継国家だったという国を滅ぼしたというキルナール王国に援助を求めるか。


 とりあえず、マスターコードを発進して、修理ドックが存在しているか確認を取ろうか。


『第13ドック、受諾拒否』


 冗談だろ? 俺の権限クラスはBだ。

勇者所縁の施設はほぼフリーパスなのだ。

それが拒否されたとなると、クラスA以上の勇者がいるということだ。

敵か味方か慎重にならざるを得ない。


『第6ドック、受諾』


 幸い、第6ドックが受け入れてくれるようだ。

その後の通信には応じてくれないため、何らかの不具合を抱えているようだが、行ってみるしかない。


「俺を同行させてくれ。まだゲートの補償は貰っていなかったよな?

ならば、その補償に同行を加える!」


 この皇子、単独で乗って来たら人質にされるとは思わないのか?

まあ、こちらにそのつもりはないが。


「別に構わないが」


「タカトウ、そんなに簡単に決めてしまってどうするんですか!?」


「キサラギ、この世界のことを知る案内人は必要だと思わないか?」


「それはそうですが、セキュリティはどうするんですか?

あまり現地人に見せない方が良いものが沢山あるんですからね?」


「構わない」


 どうやら、彼らの文明は退化しているようだった。

たぶん、見せても何も理解出来ないだろう。

まさか、転移門ゲートの電力供給に馬が発電機を回しているとは思わなかった。

なぜ戦艦の電力を使わない? なぜ同じ機関で発電しない?

あまりにもチグハグな文明だった。


「北に進路を取れ。目標第6ドック。

西大陸北西部に向かう」


 方位は信号の受信方向から割り出した。

もう1つのドック、第13ドックの場所もだ。

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