第285話 交渉

Side:トラファルガー帝国


 第8勇者という人物に聞き覚えはないが、転生者としての知識――主にラノベだが――により、勇者召喚の犠牲者なのだろうとは想像がついた。

その人物が帰った先からの訪問者なのだろう。

彼らはどのような目的でこの世界にやって来たのか、また友好的な者たちなのか確認する必要があった。


「話を訊ねたい。交渉の場を設定させていただきたい」


 俺は第一皇子の権限で、彼らと交渉することに決めた。

今から父である皇帝にお伺いを立てていたのでは遅すぎるのだ。


「了解した。そちらに伺おう」


 どうやら、こちらの声も増幅して聞こえる仕組みを持っているようだ。

つまり内緒話は筒抜けだったということだ。

危ないところだった。まさか一人で判断したことが功を奏すとは。


 俺はゲートの傍らに持って来ていた戦艦の上に交渉の場を設定した。

あのミズーリの艦上でやった降伏文書の調印式のような恰好になる。

彼らはそこに【転移】魔法でやって来た。

どうやら、キルナール王国と同等かそれ以上の技術を持っているようだ。


 彼らを味方に引き込めれば、我々はキルナール王国に勝てるかもしれない。

いや、それは彼らに侵略を受ければひとたまりもないことを意味する。

それはキルナール王国に勝つのではなく、この世界を売り渡すことに等しい。

俺は警戒しながら、交渉の席についた。


「私は、この国――トラファルガー帝国の第一皇子フリードリヒという。

此度の訪問の目的を伺いたい」


 こちらの戦艦の存在は、彼らも警戒に値したようだ。

いや、どのような性能なのか、判断に窮しているという感じか。


「私はジャパーネのタカトウという。

一介の戦艦艦長だ。

我らはMAOシステムという敵を追っていたところだ」


「MAOシステムといえば、バイゼン共和国でのゲート暴走事故で発生した魔物兵器の出所か?」


 フリードリヒがつい口走ってしまったのは、クランドから得た情報だった。

つい知っている名前が出て来て反応してしまったのだ。


「ご存知でしたか。つまりこの世界ではまだ・・MAOシステムが作動しているということですな」


「いや、それはもう無い。(キルナール王国が)ゲートを破壊して防いだ」


「つまり。MAOシステムに座標アドレスを知られたのですな」


 そう言うとタカトウは渋い顔をした。

そして思いつめたように言葉を続ける。


「ところで第8勇者をご存じないか」


「勇者関係は西の大陸の歴史書に出ているようで、こちら東大陸では把握していないのだ」


「西大陸、そこは勇者召喚をした国がある大陸ですな」


「詳しいことは知らないが、既にその国はなく、後継国家を自称した国も滅んだそうだ」


「ほう、ならば……」


 そこでタカトウが口籠った。

どうやら我々に知られたくないことを飲み込んだようだ。

ついうっかり我々も情報を与え過ぎたようだ。

情報を得ようとしたのに、逆に情報を引き出されてしまった。

なんとか挽回しないと。


「ゲートの制御権は戻してもらえるか?

こちらも利用中なのでね」


「それは失礼した。しかし、こちら側からは何とも言えぬ。

制御権は向こう側に移っているのだ」


「なんですと!」


「すまない。なるべく早く用事を済ませて、戻るとしよう。

戻れば制御権は返せるはずだ」


 どうやらゲートはジャパーネに使われっぱなしのようだ。


「それは困る。では、その損失は補償してもらえるのだろうな?」


「善処するつもりだ」


 力を誇示してゴネるかと思ったが、そんな野蛮人ではないようだ。

これで父に顔向けできそうだ。


「我らは、その西大陸に向かう」


「そうか。くれぐれも戦闘状態にならないようにな。

キルナール王国は強いぞ」


 さらっとキルナール王国を敵対相手に推しておいた。

これでお互いにつぶし合ってくれれば御の字だ。


「いや、戦う気はない。

我らの艦は修理が必要なのだ。

その施設を探しているだけだ」


 タカトウも教えなくても良いことをサラッと言って来た。

これもお互い様という計算なのだろうか?


「つまり、我らは友好的な関係を結べるということだな?」


「ああ、それで問題ない。我らは敵対するつもりはない」


 それが事実で、このまま西大陸に行ってくれれば我が国は安心出来そうだ。


 ◇


Side:第13ドック


「マスターコード確認。権限階位クラスB。

寄港整備を要求しています。いかがしますか?」


 突然、セバスチャンが話し出した。

どうやら、外部からアクセスがあったらしい。


「なぜ俺に訊く?」


「それはマスターが最上位階位のクラスSだからです」


「何処のどいつだ?

権限が下ならば拒否してかまわない」


 なんの悪戯だ?

第13ドックに魔導通信で接触して来た者など初めてだった。


「要求を拒否しました。

第6ドックが要請を受諾したもようです」


「第6ドック? そんなものどこにあるんだよ。

今まで探しても確認出来なかったよな?」


「第6ドックの位置情報は……」


「いや、やめろ。どうせ旧ガイアベザル帝国のあった北の方だろ?」


 奴らならば、設備の備品まで持ち出してしまっているだろう。

それにしても、何処の誰がマスターコードなんて使って来たのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る