第277話 帝国の脅威
トラファルガー帝国の勢いが止まらない。
俺が簡易型蒸気砲の燃料石と魔石の供給を止めた後、トラファルガー帝国は戦艦の小口径砲の陸上転用に成功し戦線に投入しだしたのだ。
そこには簡易型蒸気砲の技術が転用されていた。
どうやらトラファルガー帝国には頭の切れる人物がいるようだ。
その行動に俺は危機感を持った。
いつトラファルガー帝国が同盟を破棄して攻撃して来るか判らないと。
トラファルガー帝国がその準備が整うのを待っているだけに思えたのだ。
トラファルガー帝国は、前弩級戦艦の他に、潜水艦と誘導魚雷、鳥型ドローン、欺瞞装置という未来技術を持っていた。
少なくともそれらの得られる4つの座標アドレスを知っているということだった。
潜水艦と誘導魚雷は前弩級戦艦を得た世界の少し未来で、そこに生体部品を使う文化を持つという分岐世界の技術のようだ。
仮にまたトラファルガー帝国と戦うことになっても、これは現用の技術で対抗措置がとれる範囲だ。
鳥型ドローンの技術は地球の現代技術に近い。
しかし、その時代の兵器を投入していないことから、誰かがその知識を持っていて、何らかの技術転用で実現したものだろうと推測した。
地球の現用兵器が手に入るならば銃を大量に持っていてもおかしくない。
車レベルでも剣と弓の世界では脅威だろう。
それが全く無いということは手に入らないのだと判断した。
ドローンの知識を持っている、それはつまりトラファルガー帝国に召喚勇者か俺のような転生者がいることを意味している。
召喚勇者や転生者は何らかのチートスキルを持っているだろう。
それがあることで世界を手に入れたいと思う者も多いだろう。
実際過去に勇者同士が争った形跡がある。要警戒だった。
そして欺瞞装置。
これだけが明らかに異常に進んだ技術だった。
だが、欺瞞装置を積んだ兵器そのものではなく、欺瞞装置だけを戦艦に積んでいた。
欺瞞装置だけでもこの世界では脅威なのに、それを持つ兵器そのものを運用されたならば、どれだけ恐ろしいことだろうか。
これもそれがないということは、その接続世界を持て余したということだろう。
そのような兵器がMAOシステムの魔物兵器のように生きて活動していたならば、トラファルガー帝国の騎士程度では対抗出来なかったのではないだろうか。
常時接続されてしまったならば、この世界が滅びかねないような脅威があったとすれば、そこに接続することは躊躇われるだろう。
持て余した世界、だからその技術は繋げた一瞬で手に入れたものしか使えない。
その幾ばくかの成果に、どれだけの人命という対価を払ったのだろうか。
大方、トラファルガー帝国は、安全で実入りの良い世界から兵器を手に入れたいと考えているのだろう。
それを手に入れた時、はたして彼らは我が国との同盟関係を維持しようとするのだろうか?
◇
「ご覧ください」
セバスチャンに呼ばれ、
「どう見ても未来兵器だな」
「はい、ここまで侵入を許したのは、これらが欺瞞装置を持っていたからです」
俺はセバスチャンのその言葉に驚いた。
欺瞞装置、それはトラファルガー帝国が唯一我が国の技術を凌駕するものだった。
つまり、セバスチャンはそれの元の技術を持つ世界の座標アドレスを手に入れたということだった。
「なるほど、消えて襲って来るのならば、トラファルガー帝国も対処に苦慮したことだろうな」
俺たちだって、この実験場が閉鎖空間で無かったならば、気付かずにどこまで侵入されたかわからなかっただろう。
戦艦の全体は覆えなくても、この多脚戦車のサイズならば完全に欺瞞出来てしまうのだ。
「セバスチャン、この世界に打って出ても対処は可能か?」
「欺瞞装置は研究済みです。
まさかここで使うことになるとは思ってもいなかったため対処が遅れただけです」
「この世界、なるべく研究しておく必要がある。
施設の安全に留意し、調査せよ」
「承知いたしました」
これでトラファルガー帝国の優位を一つ潰せるかもしれないぞ。
全ては俺の家族の未来のために。
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