第276話 一方帝国では
お知らせ
275話において、なぜ「タカオで行って見えた時点で速ゲート収納して撤退しなかったのか」の理由を加筆しました。
気にならなかった方はスルーで問題ありません。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バイゼン共和国の暴走
それはトラファルガー帝国に提供した簡易型蒸気砲の燃料石や魔石の供給を止めることだった。
トラファルガー帝国の大砲は、暴走
簡易型蒸気砲は、それに対抗するために提供したものであった。
今回、俺がバイゼン共和国の暴走
つまり、それに対抗するためにトラファルガー帝国に供給した簡易型蒸気砲も必要なくなったということだった。
このような事態となっときを想定し、最初は簡易型蒸気砲に自壊装置でも付けようかと思っていたが、それこそ魔力欠乏状態ではその自壊装置自体が作動しない。
ならば、あえて魔力欠乏状態にして簡易型蒸気砲を動かなくすれば良いという考えに至ったのだ。
それが実際の作動エネルギーを生み出す燃料石と、魔導具を作動させるために微弱な魔力を発生させる魔石の供給停止だった。
どちらが欠けても簡易型蒸気砲は作動しない。
現在稼働中の簡易型蒸気砲の燃料石と魔石が使えなくなるまでには、まだ間がある。
トラファルガー帝国がバイゼン共和国の魔物兵器を叩ける時間はまだ十分に残される。
売っておいてあれだが、元々その条件を飲ませての契約だった。
◇
Side:トラファルガー帝国
「殿下、彼の国が魔石の供給を止めてきました」
「まだバイゼン共和国は内陸部の攻勢を緩めていないのに、なぜだ!」
俺が聞いていた蒸気砲の提供条件と話が違う。
たしか、バイゼン共和国の大砲の脅威が無くなったならば魔石の供給を停止するだったはずだ。
売っておいて、使えなくするなど、随分と傲慢な事だと思ったものだ。
制海権は得たものの、航続距離の関係でバイゼン共和国の首都は落とすことが出来ない。
必然的に陸上戦力による攻勢が必要になるのだが、バイゼン共和国の魔物兵器が脅威となった。
それに対抗する切り札こそが蒸気砲なのだ。
「彼の国が裏切ったのか?」
「いいえ、どうやら彼の国はバイゼン共和国の暴走ゲートを危険と判断したようで、先日それを破壊したとのことです。
そのため、今後バイゼン共和国は、これ以上の魔物兵器は用意できないということのようです」
それは、彼の国が我が国のゲートをいつでも破壊出来る能力があるということを意味する。
地理的条件はバイゼン共和国と同じ、いや、バイゼン共和国の方が厳しかったはずだ。
それを容易に破壊できるのだ。我が国の命運も彼の国に握られているということだ。
なんとしてでも対抗兵器を手に入れなければならない。
「蒸気砲の調査と模倣はどうなっている?」
「構造的に同じものを作ることは出来ました。
しかし、蒸気の発生方法と発射パワーを再現できません」
「なぜだ。ボイラーと弁の仕組みは伝えたはずだが?」
蒸気のことは俺の
幕末から明治にかけて、あの当時の技術でも蒸気機関は作れたのだ。
この世界で作れないわけがない。
「魔法由来の蒸気圧は尋常ではありません。
そしてアダマンタイトの強度が圧力タンクに必須なのです。
我が国にはアダマンタイトはありませんし、同等の強度の圧力タンクは作れません」
「つまり、あの弾速が魔法無しでは実現出来ないのだな?」
「はい、それと部品の精密さも問題で、弁の部分から蒸気が逃げてしまいます。
ボイラーの爆発事故も発生しました」
精密技術は旋盤が必要なんだよな。
旋盤を作るにはマザー旋盤というものが必要で、その最初の1台を作るのが大変なのだ。
当然、我が国では作れない。
いっそ、彼の国から旋盤を輸入出来ないか訊いてみるか。
本末転倒だがな。
「そちらは見込み無しか……。
ならば、台座の応用はどうなった?」
蒸気砲には、その発射エネルギーを逃がす仕組みが台座に搭載されていた。
発射の反動を逃がす仕組みだ。
我が国が戦艦から小口径砲を降ろして発射実験をした時、発射と同時に小口径砲がひっくり返ったという。
あれは、戦艦という大重量に固定されているから撃てるものであり、地面に置いただけではそうなって当然なのだ。
まあ、地面に完全固定すれば撃てるようになるのだが、そうなると砲を移動出来ない。
その発射してもひっくり返らず移動を可能にした台座を蒸気砲は実現出来ているのだ。
その技術を応用すれば、小口径砲を移動運用できるようになる。
「台座の複製に成功し、小口径砲に転用し実験いたしました。
結果は良好。実用に耐えるとのことです」
「それは重畳。
これからは蒸気砲が使えなくなっていく。
その台座をそのまま転用すれば、我が方の砲撃力は維持されることだろう」
だが、それは対バイゼン共和国が安泰になるだけだ。
彼の国を相手にしようと思ったら、やはり何等かの未来兵器を手に入れるしかない。
「実験失敗。ゲートの先は何も無い大地」
決死隊が帰還した。
彼らはゲートの先に何があるかも知らずに調査に突入するのだ。
ゲートの先は人が生きて行ける空間でない場合もある。
簡易的な防毒マスクは用意出来たが、酸素ボンベなどは用意出来なかった。
そのボンベの製造技術がないのは蒸気砲の圧力タンクと同様だったからだ。
既に何組かが未帰還となり、命を落としたと見られている。
「よし、次のアドレスに設定変更、エネルギーを溜めよ!」
馬による発電機が回り始める。
これが遥か過去から続く発電方法なのだ。
蒸気ボイラーが実用化出来たならば、蒸気タービンによる発電が可能になるのに、それもまだ実現出来ていない。
いや、蒸気タービンと発電機はあるのだ。戦艦の中に。
それらを抜き出して設置することが出来ないのだ。
それをやるにはクレーンが必要だからだ。
その技術が我が国にはない。
戦艦を引っ張って来てゲートまで電線を引くか。
その材料の純銅と絶縁体の被膜物質がないか。
さて、当たりを引くのはいつになるのやら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます