第273話 タイムパラドックス

 転移門ゲートの接続先は天文学的な数であり、第13ドックを建造したガイア帝国が過去に利用していた接続先が、現在はどうなっているかは判らなかった。

MAOシステムにより侵された接続先もあるらしく、転移門ゲートが放棄された要因でもあるようだ。

俺はそれら接続先の安全を確認するようにセバスチャンに命じていた。


「データに存在していた全アドレスの探査が終了いたしました」


 1週間後、セバスチャンがそう報告した。


「聞こうか」


 いまここが無事だという事は接続先は侵略されていなかったということだろうか。

俺はセバスチャンに先を促した。


「接続先には、こちらと同様の転移門ゲートが設置されておりました。

おそらく一方通行で転移した先に帰りの転移門ゲートを持ち込み設置したのでしょう」


 つまり双方向で行き来するには、相手側にも転移門ゲートが必要ということか。


「そして特定の世界軸にMAOシステムの存在を確認しました」


「特定の世界軸と言うと?」


「MAOシステムは、転移門ゲートの先からの侵略者です。

その世界軸では初期型のMAOシステムが稼働していましたので、これを殲滅いたしました」


「ん? 殲滅した?」


 セバスチャン、何やったの?


「過去の転移門ゲートは、現地人仕様だったため、違うアドレスに繋ぎ直すのにエネルギーの蓄電期間を必要としていました。

ここの転移門ゲートは、マスターの電源改造により、常時接続先を切り替えられます。

つまり、MAOシステムを発見したならば、速やかにそのアドレスの過去を探査し、建造途中のMAOシステムを破壊出来るのです。

MAOシステム側はタイムロスのため対抗手段を持ち得ません」


「まさか、それって……」


「はい、MAOシステムが建造されない世界に書き換えました」


 めちゃくちゃタイムパラドックスを生む案件じゃないか。

発見したMAOシステムは、過去で建造されませんでしたって……じゃあ最初に発見したのは何だったの?

新たな世界線が生まれて、そこには転移門ゲートが繋がらなくなったということ?

その元の世界が別アドレスなのか?


「となると、バイゼン共和国のMAOシステムも消えたのか?

いや、俺たちMAOシステムと戦った記憶のあるこの世界も違う世界線に乗ったのか?」


 訳が解らなくなった。

俺の知識の泉もこの内容は許容範囲外らしい。


「俺たちの世界や記憶から、MAOシステムが存在していたことや、MAOシステムそのものは消えなかったが、転移門ゲートで接続していた先からは消えてしまったということか?

また、その消えたMAOシステムがあった世界は別アドレスに存在して、同じアドレスでは接続できなくなっただけと」


 ややこしい話だが、そんなことなんだろう。


「間違いなく言えるのは、いま把握しているアドレスには、もうMAOシステムの影響は無いということです」


 つまり、有益な資源採掘場所を手に入れたということだった。

特に魔宝石が採掘できる接続先は常時接続したいほどの価値があった。


「MAOシステム側から、こちらの世界に接続できなくなったのも、こちらのアドレスが何等かの影響で失われたからかもしれません」


 なるほど、この世界を侵略していたMAOシステムが、こちらに残った施設のみで戦っていた原因はそれか!

あれ? MAOシステムは袂を分かった勇者が造ったという話ではなかったか?

勇者同士の壮大な喧嘩がお互いを滅ぼす戦争となった。

それが魔導戦艦と改造魔物の戦いだったのでは?


「あ、そうか。勇者といえども出身世界が違っていたんだった。

その出身世界の1つがMAOシステムの大本か!」


 いや、待て。

そうなると、この世界ですらMAOシステムに滅ぼされて、世界線の分岐した世界なのかもしれないぞ。

良く判らないが、そのせいで転移門ゲートが閉鎖されていたならば、バイゼン共和国の転移門ゲートってヤバくね。

向こう側からエネルギーが強制流入していて常時接続なんだよね?

過去を辿られたら……あ、あの転移門ゲート自体が存在してないのか。

過去に遡られて存在を消されるということは、どうやら無いようだ。

いや、とっくに消された後の世界かもしれないけどね。


「とりあえず、もしバイゼン共和国の転移門ゲートが未だ接続されているならば、大問題だな」


 それは、MAOシステムの大本が、失われたこの世界のアドレスを知ったということかもしれないのだ。

どこまで拗れているのかは判明しないが、改めて滅ぼしに来るかもしれない。

いや、既に本人たちは存在せずにMAOシステムだけが勝手に動いている可能性もあるな……。

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