第262話 あれからの戦況

 簡易型蒸気砲を出荷して数か月、やっと戦艦がトラファルガー帝国より回航して来た。

交渉役のエアハルト男爵が代金として持って来たのだ。


「それでは、これで引き渡し完了ということで」


 戦力的には痛いのだろうが、ただで拾った物で支払いが終わったのだ。

エアハルト男爵は良い笑顔でいまの戦況を語ってくれた。


「あれは素晴らしいものですな。

馴れれば照準も付け易い」


 簡易型蒸気砲の投入により、トラファルガー帝国の内陸部での戦いは反攻作戦に突入したそうだ。

バイゼン共和国の大砲をトラファルガー帝国の簡易型蒸気砲が駆逐したからだ。

共和国側は大砲を自分たちだけの物と思っていたらしく、まさか帝国が砲で反撃して来るとは思っておらず、馬車により移動し展開する簡易型蒸気砲に手も足も出なかったそうだ。

バイゼン共和国の大砲は、ゲートより出現したMAOシステムの魔物の死骸そのものだ。

それを何台もの馬車で引っ張って展開していた。

魔物の骨格込みで無ければ安定して大砲を撃てなかったからだ。

効率の悪い無駄な作業であり、その移動は隙だらけだったという。

その展開速度の遅さを逆手にとって簡易型蒸気砲で破壊してまわったらしい。


 トラファルガー帝国は、バイゼン共和国の沿岸部も戦艦で蹂躙したそうで、いよいよバイゼン共和国に対して降伏勧告をするつもりだそうだ。


「降伏するかなぁ」


 よほど酷い現実を突き付けられて厭戦気分にでもならないと、民主主義国家は止まりそうもないよな。

つまり、市民に犠牲が出ないと戦争を止める気にすらならないかもしれない。

バイゼン共和国が、戦争は富を得る手段だと思っている限り、終わりそうも無いなぁ。

簡易型蒸気砲が市民に向けられるのは嫌だな。

しかし、燃料石や魔石の供給を止める以外、俺にはどうしようもない事だった。


 貿易輸送船撃沈に端を発したこの騒動も、バイゼン共和国の裏切り、そして消滅で終結を迎えそうだ。

何年かかるかわからないが、東大陸はトラファルガー帝国一国に統一されることだろう。


 そうなった時、トラファルガー帝国の仮想敵国は我が国キルナール王国ということになるだろう。

今の所は我が国の戦力が圧倒しており、直ぐにでも戦争ということは無いだろう。

しかし、今後、ゲートから何らかの優れた兵器を手に入れた時、我が国という脅威を排除しようと思うかもしれない。

いまはトラファルガー帝国が友好国だとはいえ、油断は出来ない。

なぜならば、我が国はトラファルガー帝国の戦艦を沈めすぎた。

あれはただの鉄の塊ではない。

1艦で1000人もの人が乗っていたのだ。

国と国の間では、それは解決事項となっている。

しかし、その家族や知り合いたちの個々の人の心までは解決してはいない。

その恨みがいつまでも火種として燻っていても不思議ではないのだ。


 そんなある日、バイゼン共和国から難民が船でやって来た。

俺はその扱いに困り、食料だけ与えてお引き取り願った。

人道支援などと言って保護すれば、こちらに人の波が押し寄せて来るだろう。

この世界、そんなに甘いものではない。

俺も心を鬼にして追い出すしかなかった。


 だが、この世界、土地に対して人が少ない。

我が国の海岸線は魔導レーダーで監視しパトロールの艦船で対処出来ているが、リーンワース王国の海岸となると、無人地帯に簡単に上陸されてしまうという事態が発生した。

リーンワース王国と我が国は陸続きだ。

歩いて侵入されたら対処のしようがない。


 我が国はいま、バイゼン共和国から人の波という侵略を受けつつあった。

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