第263話 本物に失礼

 彼らは難民という名の侵略者だった。つまり偽難民だ。

政治的に弾圧されているから助けて欲しいというより、帝国に組み込まれてしまうのが嫌なだけなのだ。

トラファルガー帝国の支配下が嫌だからと、キルナール王国やリーンワース王国に、おせっかいにも民主主義を齎そうとされては迷惑極まりない。

王制で上手くやっている国に民主革命をなんて、それはテロリストに等しい。

彼らの正義は、この国にとっては正義ではない。

そこに対立が生まれ、自分たちが正しいなどとほざかれては治安も維持できなくなる。


「人道的にと食料提供をしたのが間違いだった。

タダで食えるからとわざわざキルナール王国に来るようになってしまった」


 しかも、リーンワース王国の海岸に上陸し、陸路でキルナール王国にやって来るのだ。

国境線は長い。全てを監視出来るものでは無い。

しかも、俺が与えた食料を頼りに長距離を歩いて来るのだ。


 俺は自らの日本人的な親切心を恨むことになった。

彼らには心を鬼にして対処するしかない。

ここは王制なんで、王制を否定する人は犯罪者です。

密入国、勝手な移民は犯罪です。

我が国は王政だけどよっぽど民主的なのだ。

民のために王が働いているのだ。

そこに余計な民主活動家は必要ない。


 俺は街で一斉摘発を行った。

民主活動は違法、逮捕することにしたのだ。

所謂国家転覆にあたるからだ。

幸い、メイドゴーレムたちが彼らのステータスを見ることが出来た。

彼女たちが調べれば、ステータスによりバイゼン共和国出身者は簡単に見つけることが出来た。


「どうぞお国に帰って活動してください」


 彼らを捕まえて、輸送船でバイゼン共和国まで送り届けることになった。

難民船を見つけても、食料援助もしないようにした。

そうなるとリーンワース王国から迂回することも出来なくなった。

直接上陸しようとする者たちは拿捕して送り届けることを繰り返した。


 そのうちトラファルガー帝国が東大陸からの出航を監視するようになった。

そして、帝国支配下の暮らしが今まで以上に快適だったため、難民という名の民主活動家は消えて行った。


 こうして、街の入口で犯罪者の侵入を監視していたメイドゴーレムは、バイゼン共和国出身者も監視するようになった。


「しかし、誰も王制打倒に興味を持たなかったのが凄かったな」


 膝の上のプチを撫でる。我が国は今日も平和だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る