第261話 対価
簡易型蒸気砲を売った対価が問題だった。
お金をもらっても使わなければ意味が無い。
実は、我が国が海外貿易を始めた理由は、単に食料が余っているからだった。
畑からの収穫、そして食肉工場から得られる肉や魚の加工品を持て余していたのだ。
国民を飢えさせないようにと頑張った結果、食べ物に関しては出荷に消費が追い付けなくなっていたのだ。
それらは時間停止倉庫に入れて常に新鮮な状態で保管出来ていたが、その倉庫も有限なため輸出という手段で消費していたのだ。
貿易船の船倉は時間停止倉庫であり、いつでも新鮮な状態で運べることが出来てこその輸出だった。
輸出相手国であるバイゼン共和国も、それを魔法技術と認識して、新鮮な食料が手に入ることを喜んでいた。
今まで
これらは我が国での生産が追いついておらず、輸入に頼る部分が多かった。
しかし、それも食料を何度か輸出した分程度で賄いきれていたし、ルナトーク王国やキルト王国を解放したおかげで生産力が戻り、国内生産が今後は増えて行く予定なのだ。
既に輸入しなければならない物資は少ない。
簡易型蒸気砲は曲がりなりにも兵器だ。
玩具のような値段で売るわけにはいかない。
しかも、基幹部品として、西大陸でも希少なアダマンタイトや魔宝石を使用している。
どちらも高額で有名だ。
簡易型蒸気砲の値段は日本でいえば高級車1台分は貰わなければならない。
それが戦争となると何門必要だと言うのだ。
軽く百門単位で発注されることだろう。
そこで何を対価とするのかという問題が発生したのだ。
全ての点に於いて東大陸と西大陸の文化は同程度だ。
西大陸はそこに魔法文化による商品が加わる。
東大陸には我が国が欲しい高額商品はほぼ無いと言えよう。
民族色豊かな工芸品など、それこそ買う層がいない。
リーンワース王国のように奴隷とされた国民の解放や領土で払うなどということは出来やしなかった。
俺が戦艦の使用を制限した多少罪滅ぼしのきらいはあるが、兵器をタダで渡すわけにはいかない。
尤も、バイゼン共和国が壊れたゲートを使っている時点で、トラファルガー帝国の戦艦使用は認められている。
それでも内陸での戦いは深刻なのだ。
「我が国は対価として貴金属の提供を検討しております」
そのようにトラファルガー帝国の交渉役、エアハルト男爵が言う。
だが、そんなことをしたら、帝国でインフレが起きるぞ。
俺はその貴金属を放出しない、いや放出出来ない。
買うものが東大陸に無いからだ。
そうなれば、物価が上がり帝国の経済を壊してしまう。
「帝国の経済を壊したくないんだがな……」
何か良いアイデアはないか?
トラファルガー帝国にしかなく高価なもの……。
そして、帝国が手放しても経済的な損失とならないもの。
「ああ、戦艦で払ってもらおうかな」
第13ドックで新造艦は製造できるが、それを西大陸の沿岸警備に使うのは勿体ない。
ならば、戦艦を輸入してそれに当たらせればよい。
トラファルガー帝国にとって戦艦は、時間さえかければゲートから手に入る拾い物だ。
敵国であるバイゼン共和国が新たな戦艦を手に入れられなくなった今、戦艦の使い道は我が国やリーンワース王国に対してだけとなる。
既にバイゼン共和国への報復艦隊は動き出している。
バイゼン共和国の沿岸部を制圧した後、その戦艦の矛先は何処へ向けるのだということだ。
戦争での役割を終え、我が国と友好関係を結ぶつもりならば、新たな戦艦など必要無いはずなのだ。
「それでお願いします」
エアハルト男爵は俺の説明を聞き、納得すると即断した。
国から全権委任されているという。
潜水艦とか欺瞞装置とかあったけど、それは実物を手に入れて解析中なのであえて要求しなかった。
さて、後はバイゼン共和国に出現した暴走ゲートの後始末だが……。
MAOシステムに目を付けられると、どんな手段をとられるかわからないから、スルーしておこうかな。
俺たちを殲滅するために、どんな技術革新を齎すか、わかったもんじゃない。
今は気付かれていないようだから、このままスルー推奨だろう。
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