第260話 技術供与というか販売だった
大砲を破壊する程度であれば、蒸気砲を与えれば良いだけだった。
問題は魔法技術を使用した蒸気砲が東大陸で動くのかどうかだ。
これは陸上艦が動いたことにより、ある程度の予測がついていた。
魔導機関が魔力を生み出すことによって陸上艦が動くのならば、燃料石で魔力を供給できるうちは蒸気砲も動くということだった。
制御装置と自動装てん装置として組み込んであるゴーレムは渡すわけにはいかない。
ならばゴーレム機能をオミットした簡易型蒸気砲ならばいけるだろう。
そう思っていた時期が俺にもありました。
トラファルガー帝国に意気揚々と簡易型蒸気砲を持ち込んだ俺は、まさかの盲点により実験を失敗してしまった。
「まず発射体を後退位置まで戻します。
次に薬室の中に砲弾をセットし蓋を閉めます。
そして照準をつけ、ここに魔力を流すと」
ポン! ドーーン!
圧力のかかった蒸気が抜ける軽い音がして砲弾が飛んで行った。
弾頭に爆裂の魔宝石を付けていなかったので爆発はしなかったが、着弾した場所には運動エネルギーによるクレーターが出現した。
「このように砲弾が発射され目標に着弾します。
それではやってみてください」
帝国の技術士官が前に出て簡易型蒸気砲を操作した。
発射体を後退させ、薬室に砲弾を収め蓋を閉め、照準をつけて、そして戸惑った。
「どうやって発射すれば良いのでしょうか?」
「それは魔力を流して……」
俺はそこで重大なミスに気が付いた。
簡易型蒸気砲の発射トリガーは操作員自身の魔力だったのだ。
つまり魔力の無い東大陸の人間では簡易型蒸気砲を撃つことが出来ない。
西大陸では生活のあちこちで小さな魔力により魔導具を動かして来た。
それが当たり前だったのだが、東大陸ではそうではない。これは盲点だった。
「直ぐに改良しましょう」
東大陸では、機械式の発射トリガーを付ける必要が出て来た。
魔力の無い人間が一時的に魔力を流せる仕組み……。
俺は小さな魔石に衝撃を与えると微量の魔力を流すことのできる装置を作った。
これは100円ライターの火打石のように、機械操作で魔石が発射の魔力を流すのだ。
錬金術でサクっと作ったところ、帝国の技術者たちに驚かれてしまった。
「魔法だ!」
「すごい、魔法は本当にあったんだ」
「どうして東大陸で魔力が無くならないんだ?」
帝国の技術者が口々に驚きの声をあげるが、俺は気にせずに簡易型蒸気砲に発射装置を取り付けた。
「この装置の引き金を引くと発射されます」
「引き金?」
そうだった。この世界、銃も無いから引き金自体を知らないんだ。
「ここに指をかけて引くことを引き金を引くと言い、これにより砲弾が発射されます」
先ほどの技術者が再度装填手順を行い、引き金を引いた。
ポン! ドーーン!
「おお、発射された!」
皆、魔力のない帝国人の力だけで砲弾を発射出来たことに喜びの声を上げていた。
「これが量産された暁には、バイゼン共和国の侵略者に目に物みせてくれる!」
威勢の良い声が響きわたる。
だが、これって俺しか作れないだろ。
「これ作れます?」
俺がそう訊くと帝国の技術者は皆黙ってしまった。
俺が想像するに、魔宝石による制御機構、燃料石によるエネルギー伝達、蒸気圧に耐えるアダマンタイト製圧良室の加工、全てこの国では無理だ。
「砲弾は用意できますが……」
砲弾は戦艦に搭載されている小口径砲の弾が流用出来るからな。
いや、そのように俺が簡易型蒸気砲を改造した。
砲弾は魔法石が待機中の魔素を利用して爆裂しているため、使えないと判断していたからだ。
なので、ゲートが稼働していれば砲弾の補給はできるはずだ。
最初帝国は戦艦からその小口径砲を降ろして使おうと考えたそうだが、技術的に無理だったらしい。
どうやら発射時の衝撃を逃がす機構がわからずに試射で砲がひっくり返ったらしい。
戦艦に設置してある状態ではその戦艦自体が重しとなっていたというわけだ。
地面に固定すれば使えるが、けん引して移動した先で撃つことは出来なかったのだ。
「砲の製造は無理です」
技術的壁の現実を理解し、悔しそうに技術者が答えた。
どうやら俺はまた内職の日々を送らねばならないようだ。
しかし、これはある意味大量破壊兵器の拡散防止につながる。
燃料石への魔力注入は西大陸でしか出来ない。
そして、トリガーとなる魔石も消耗品であり、使い切ったら新しい魔石と交換しなければならない。
つまり、西大陸東海岸をほぼ制覇し、海上交易を行っている
トラファルガー帝国が、我が国に簡易型蒸気砲を向けようとしても、その時は燃料石や魔石の輸出を停めてしまえば良い。
我が国の安全保障としても、そこは重要な点だった。
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