第249話 脅威と使者

「ここまで接近を許すとは……。

いくら魔導レーダーでも敵味方識別は出来ないからな……」


 しかも、トラファルガー帝国の戦艦ならば、レーダー圏外からの砲撃が可能だ。

いや、やろうと思えばバイゼン共和国の戦艦でも可能だ。

その事実に気付き、俺は恐怖した。

もし、悪意を持って接近されていたならば、あの超長距離砲撃でイスダルの街が砲撃を受けていた可能性があったのだ。

いくら長距離魔導砲を備えた要塞があっても、敵艦を捉える前に砲撃されてしまったならば対処など不可能だ。


 しかも、これで我が方の主軍港の位置を把握されてしまった。

動けない目標など、鳥型ドローンが無くとも砲撃可能だ。

トラファルガー帝国の戦艦も羅針盤や六分儀などで、自らの位置は把握できるだろう。

そうでなければ、大海を無事に航海など出来はしない。

海上での自らの位置を把握しているということは、地図上の都市までの方角や距離も把握出来るということを意味していた。

それが大砲の射程内であれば、その都市が見えなくとも砲撃可能ということになる。


「困ったことになった。

我が国は、戦艦の砲撃に無防備ではないか……」


 砲撃を防ぐ方法は大まかに2つあった。

砲弾そのものを迎撃するか、戦艦に撃たせないかだ。


「今後は街でも対空監視を常にしないとならないな。

砲弾に対して自動迎撃させる必要がある」


 これが砲弾そのものを迎撃する方法だった。

魔導アクティブレーダーで常に監視し、砲弾を捉えたら対空重力加速砲で自動迎撃する。

着弾させなければ街に被害は無い。

これをイスダル以外にもペリアルテ商国とルナトーク王国の沿岸都市にも配備しなければならない。

バイゼン共和国は……自力でガンバレ。


「海上に艦を配置してピケットラインを構築するか、常に弾着観測機VA52を飛ばして敵艦隊の接近を未然に把握する仕組みを作る必要がある」


 これが戦艦に撃たせない方法だった。

我が国の都市を射程圏内に捉える距離に接近する前に敵艦隊を発見迎撃する。

トラファルガー帝国の超長距離砲撃は、それだけの対処を強いられる脅威だった。


 ◇


 そんなことを俺が悩んでいるうちに、トラファルガー帝国の戦艦からは使者が下艦し舟艇で港に上がり、イスダル要塞の応接室まで案内されて来ていた。

ここは会うしか無いだろう。


 俺が応接室の扉を開けると、使者は怪訝な顔を向けて来た。

俺が国の代表だとは思っていないからだろう。


「無礼者! クランド王なるぞ!」


 ティアが怒鳴るが、大目に見てやって欲しい。

俺の姿は儀礼的な華美な服装ではなく、Tシャツにスラックスというラフな感じだ。

さらに若い容姿には王の威厳などないのだ。

自分も忘れていることがあるが、俺は転生で若返っているのだ。

小間使いが迷い込んで来たぐらいにしか認識されない自信がある。


「こ、これは大変失礼をいたしました」


 2人の使者が慌てて席を立ち頭を下げる。

その後ろで護衛騎士だろう2人が背筋を伸ばす。

この光景、バイゼン共和国でも見た。


「容姿で侮られるのは慣れてる。

楽にしてくれ」


 これは謁見の間でも作らないと、いつもこのくだりが必要か?

あんなの無駄だと思っていたが、誰が王なのかを明確に示すために必要だったんだな。

あのシステムならば、玉座に子供が座っていても王だと認識できるだろう。

何気に理にかなった方法だったんだな。


「ははっ、申し訳ありません」


 使者が恐縮しつつ挨拶を始める。


「わたくし、トラファルガー帝国皇帝より使者を賜りました、ヘルメスベルガー伯爵と申します。

こちらは外交官のエアハルト男爵です」


 二人とも、西大陸の貴族と同じような文化の華美な装飾の遺族服を着ている。

第一次世界大戦レベルの戦艦を扱っているが、中身は中世の人間たちなのは既出だ。

そのちぐはぐさが、東大陸の特徴なのだ。


「我が国の皇帝よりの親書をお持ちいたしました」


 ティアが親書を受け取り、開封し俺に渡して来た。

危険はないかの判断が必要であり、その手続きとして行われているのだ。

中は面倒な修飾をされた文章であり、読んでいると頭が痛くなる。

それを要約しないと意味がわからないのだ。


 中身を要約すると、トラファルガー帝国はキルナール王国と争うつもりがない。

先の輸送船撃沈は不幸な事故であり、補償をする用意がある。

こちらが報復を受けた事項は当然であり、それに対する抗議も反撃もトラファルガー帝国はするつもりはない。

トラファルガー帝国はキルナール王国と同盟或いは不可侵条約を結びたい。

そんな内容だった。


 俺の感想は「どこまで知られたのか?」だった。

潜水艦と欺瞞装置付き戦艦を我が国の海上艦が沈めたのは知っているだろう。

その後の艦隊決戦にも参加していたことも知っているかもしれない。

あの時、トラファルガー帝国の艦をほぼ全て沈めたのが、我が国の艦隊だとは知っているのだろうか?

知られてからいきなり条約を反故にされても困るし、知っていて和睦を結びたいというのも不気味だ。

しかも、我が国はバイゼン共和国と友好条約と同盟を結んでいる。

これは簡単には話をまとめられないぞ。

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