第250話 条約交渉

「親書の内容は把握しているのか?」


「はい、伺っております」


「先の海戦に我が国の艦隊が参加していたことも?」


「はい、大変ご活躍・・・だったことも存じ上げております」


 ああ、これはあの大被害がこちらがやったとバレてるってことか。

つまり、我が国の攻撃さえ抑えればバイゼン共和国など簡単に征服出来るということだな。

しかし、それをやったと認めるわけにもいかない。


「活躍した覚えはないんだがな」


「親書にもございましたでしょう。

我が帝国はいかなる損害に対しても抗議や反撃をするつもりはございません」


 あの一文は、そこまで踏み込んでいたものだったのか。

てっきり潜水艦と欺瞞装置付き戦艦のことだと思っていたよ。

まさか、その後の火魔法攻撃の結果にまで報復に出ないという意味だとは思わなかった。

さすがにあれだけの艦を沈めたら報復されても不思議ではないし、当然関係者からは恨まれていることだろう。

それを飲み込んで不問にするというのは、どれだけ苦渋の決断だったのだろうか。

それだけに誠意を感じる。


「我が国は、バイゼン共和国と同盟関係を結んでいる。

トラファルガー帝国と同盟或いは不可侵条約を結ぶということは、それを反故にするということだ」


「それは敵の敵は味方という判断でしょう。

我が帝国は貴国の敵ではありません。

つまり貴国はバイゼン共和国と同盟を結ぶ必要はないのです」


 確かに、貿易相手としての関係はあるが、それ以外の部分でバイゼン共和国を評価したことは無かった。

お互いトラファルガー帝国に船を沈められた者同士、一緒に対処しようということだけの関係だった。


「だが、我が国が手を引けば、貴国はバイゼン共和国を滅ぼすつもりだろう?

なぜ、平和に共存できない?

これが3カ国の和平交渉ならば、俺は直ぐにでも合意するところだが、そうではないのだろう?」


「それは、我が帝国がバイゼン共和国から侵略を受けていたからです。

実際、あと一歩で帝都を落とされるところまで攻め込まれていました。

これは生存戦争なのです。

戦艦を手に入れたのも、新兵器を用意したのも、全てはバイゼン共和国の侵略から逃れるためなのです」


 え? 先に手を出したのはバイゼン共和国なのか?

そうなると、信用が置けるのはトラファルガー帝国ということになるぞ。


「何が目的で侵略なんか……」


「ゲートです。

東大陸はゲートの恩恵により文明が維持されているのです。

そのゲートが1つあるのと2つあるのとでは、そこから得られる恩恵の差が計り知れないのです」


 つまり、俺と同じでやられたからやり返しただけなのか。

さて困ったぞ。この話が本当ならば、バイゼン共和国の自業自得だ。

元々我が国は貿易が出来れば良いだけなのだ。

その貿易相手がバイゼン共和国だろうが、トラファルガー帝国だろうが、どちらでも構わない。

果たして、どちらと組む方が得策だろうか。


『空襲警報発令!』


 突然俺のタブレット端末から警報音声が流れた。

これはイスダル要塞の長距離魔導砲を管理する電脳からの警報だった。

長距離魔導砲パックは、魔導アクティブレーダーとセットなため、対空監視が可能だった。


「迎撃は!?」


『長距離魔導砲で迎撃しましたが、次弾発射までのタイムラグで3発着弾します』


ドーン ドーン ドーン


『港の施設に着弾しました』


「砲撃して来た敵は?」


『魔導レーダーに感なし』


 つまり超長距離砲撃だった。

それが可能なのは……。


「まさか、貴国の仕業か!」


「とんでもない! 我が帝国には貴国を攻撃する意志はございません!」


 となると……。だが、迎撃態勢を整える方が先だ。


「電脳、タカオ、カゲロウ、ユキカゼとリンク、各艦の対空重力加速砲を砲弾の迎撃に使え!」


『了解しました』


 さて、これで手数は増えた。

しかも重力加速砲は連射が利く。


 まさか、こんなに早く危機的状況が来るとは思っていなかった。

その懸念を抱えつつ、当事者が使者を寄越したからと安心しきっていた。

だが、トラファルガー帝国以外にも超長距離砲撃を行える国がもう1つあった。

攻撃目標と自艦の位置さえ把握していれば、鳥型ドローンが存在しなくても砲撃出来るとは気付いていたのだ。

イスダルの港の正確な位置を把握しているその国とは、バイゼン共和国だった。

バイゼン共和国が持つ戦艦の主砲ならば、地平線の彼方から砲撃することは可能なのだ。


『全弾迎撃に成功しました』


 もしこの砲撃がバイゼン共和国の戦艦によるものならば、酷い裏切り行為だ。

しかし、見た目ではどちらの国の戦艦かわからない。

なぜならばそれがゲートの同じアドレスの同じ空間から引き出したものだからだ。

充分な砲撃の後、バイゼン共和国の戦艦はこちらの生き残りに止めを刺そうと接近してくるだろう。

その時に正体を暴いてやる!

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