第231話 敵の正体

 最大速度で航行したタカオはあっという間にバイゼン共和国の港に到着した。

タカオの巨体が見えたのか、直ぐに迎えの舟艇がやって来た。


「これは陛下、どうされましたか!?」


 なんとゴードン司令その人が迎えに来ていた。

まあ、前回は王族を迎える体制でなく、失礼なことになったのだ。

改善していても不思議ではない。


「また潜水艦に遭遇してな」


「またですか!」


 ゴードン司令は、その遭遇率に潜水艦の配備数を思い浮かべて渋面を作った。


「拿捕したんだが、不明艦の攻撃を受けて海に落としてしまった。

しかし、乗組員を捕虜にしている。引き取って欲しい」


 俺の説明にゴードン司令は驚いた顔をした。

どこだ? 潜水艦を落としたことか? 不明艦のことか? 捕虜のことか?

そんなに驚くことはあったか?


「不明艦の情報はいただけるのでしょうか?」


 不明艦のことか!

まあ新たな脅威が現れたとなると驚くのも仕方ないだろう。


「不明艦は沈めてしまったので、目撃した艦の形状だけ図にしてある。

あとで渡そう」


「よろしくお願いします。

それでは、捕虜の移送のための船を手配いたします」


 ゴードン司令はタカオの後甲板を見て、捕虜の数が多いと察し、移送のための船を手配してくれるようだ。


「幹部を5人営倉に入れているから、そいつらは先に渡そう」


「それは尋問のし甲斐がありますな」


 ゴードン司令がニヤリと怖い顔をする。

ああ、あいつら非合法の取り調べを受けるんだろうな……。

まあ、うちでやれないことを代わりにやってもらうんだ。

方法には口出ししないでおこう。


 幹部5人を連れてレビテーションで舟艇に移る。

そしてそのまま俺たちはまたあの会議室へとやって来た。


「政治士官がいたぞ、あれはトラファルガー帝国の者で間違いないだろう」


 幹部の捕虜を目撃した者が呟く。

これは貴重な情報現となりそうだ。


「陛下、不明艦とはどのような艦でしょうか?」


 俺が席に着くと、食い気味にゴードン司令が訊いてくる。


「ああ、まず不明艦の特徴だが、目でもレーダーでも見ることが出来ない」


「は? そんなバカな」


 思わずそんな声が漏れる。

この世界の技術では、それが不可能なのは、俺も理解している。


「事実だ。我が艦には魔法によるレーダーが存在するが、魔法的にも存在を探知することが出来なかった」


「「「「「!」」」」」


 バイゼン共和国側の士官は驚愕で声が出ない。


「この図を見て欲しい。

その装置を破壊した後に見えるようになった艦を図示したものだ」


「シュレーデンではないか!」


「間違いない。トラファルガー帝国の戦艦だ!」


 その艦はバイゼン共和国ではお馴染みの艦だったようだ。

これにより敵がトラファルガー帝国であることが確定した。


「問題は見えなくなる欺瞞装置だ。

魔法的な仕組みを考えてみたが、我が国の技術でも、どのような仕組みか検討もつかない。

我が国では、この装置は今の技術では作れないという結論に至った」


 我が国には第13ドックの技術も含まれているので相当なものだ。


「仰る通りです。追尾してくる魚雷も、トラファルガー帝国の技術レベルでは不可能なはずです」


「技術革新を起こす何かあるいは知識の元を手に入れたとしか思えない」


「まさか、勇者召喚で技術者を手に入れたか!」


 どうやら勇者召喚にはそういった使い方もあるようだ。

たしかに技術チートと呼ばれるもので成り上がるという話もあるからな。

未知の技術とその生産設備を手に入れれば、俺のように陸上戦艦を好き勝手出来るのだ。

それを敵側が利用できないという云われは無い。

なんらかの革新的な技術をトラファルガー帝国が手に入れたと見て良いだろう。

そうなると、我が国も呑気にはしていられない。

既に輸送船を沈められ、その技術を盗もうとまでされていた。

最初に輸送船を沈められた時は、バイゼン共和国の巻き添えだと思っていた。

しかし、潜水艦が輸送船を調査していたことを鑑みるに、輸送船の技術を得るために意図的に狙われたと判断した。

これは我がキルナール王国に対する攻撃だった。

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