第230話 不明艦

「潜水艦は諦める。不明艦共々沈没位置をマークしておけ」


 俺はこの海域から離れるべきだと判断した。

まだこの海域に潜水艦や姿を隠した不明艦が存在するかもしれなかったのだ。

沈んだ潜水艦と不明艦のサルベージをすることは可能だが、その間タカオを停止させるのはリスクが高いと判断したのだ。

それに潜水艦は既に確保済みなので、同型艦は必要としない。

技術他をなにもかも全て丸裸にすれば、同じものを作ることは可能だからだ。


「バイゼン共和国の港に向かう。

ここで最高速度の試験を行おう。

追手があっても振り切るぞ」


 タカオは試験を兼ねて発揮し得る最高速度を出した。

120kph、それは65ノットに相当した。


「なるほど、水の抵抗もあるが水流ジェットの出力限界が先に来るのか」


 陸上艦は音速を越えられたのだが、海上艦はそこまでの速度しか出なかった。

いや、空中に上がって重力傾斜装置を使えば音速を越えられるのだが、それではもう海上艦ではなくなってしまうのだ。


「電脳、さきほどの不明艦の映像は残っているか」


『はい、映像データから推測しうる立体図を制作いたしました』


 さすがタカオの電脳、仕事が早い。

俺が指示する前に希望する情報を準備していた。


『正面に映します』


 俺の目の前少し天井寄りの空中に映像が結ばれる。

そこには2本煙突の戦艦が映っていた。

それは第二次大戦前の戦艦の姿に似ていた。

三笠とかあんな感じだろうか。


『バイゼン共和国の戦艦グラスターに相当する戦艦のようです。

推定全長150m、主砲は連装1基と単装1基を前甲板に背負い式に搭載しているようです。

舷側には小口径の副砲が多数並んでいます。数不明。

撮影位置的に後部甲板の武装は不明ですが、おそらく前甲板と同じと推定して再現しています。

低層の前部艦橋、煙突2本が見て取れます。後部艦橋は推測となります』


「前しか判らないということは、こちらに艦首を向けていたということだな?」


 後甲板にも主砲を搭載しているだろうから、本来ならば全砲門が使えるような位置取りをするはずだ。

そうしていなかったのには意味があるのだ。

わざわざ使える主砲の数を減らしてでも、この艦がそうしなければならなかったその意味。

それは、欺瞞装置が艦首方向にしか使用できないことを意味していた。


「光学的、魔法的に隠蔽が可能というと何だ?

魔導具ならば、魔力反応を消すことは出来ないだろう。

科学的な装置だとすると、それは何なのだ?」


 戦艦自体の設計の古さと、その装置の性能は、どう見ても同時代のものとは思えなかった。

魔導砲で破壊してしまったが、不明艦をサルベージすれば、何かわかるだろうか?


「とりあえず、この図面を印刷しておいてくれ。

映像は無理だが、紙媒体ならばバイゼン共和国に見せても構わないだろう」


 元がトラファルガー帝国の戦艦である可能性が高い。

バイゼン共和国にその資料が存在すれば、少なくとも敵を特定できるだろう。

だが、その技術、何処から来たものなのだろうか?

それは地球人の俺にもオーバーテクノロジーとしか思えなかったのだ。

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