第222話 西部方面艦隊司令部2

「陛下、こちらにご招待した理由ですが、潜水艦の襲撃に関する情報交換を海軍同士で行うというつもりでおりました。

只今、領主を呼びつけておりますので、何卒穏便なご裁可をお願いいたします」


 ゴードン司令が滅茶苦茶腰を低くして謝罪をする。

まあ田舎海軍扱いで高飛車に出られないだけ、俺は気にもしていないのだが、アイとティアはご立腹の様子だ。


「ああ、我が方も公式訪問ではないから、気にしなくてよい。

友好国として共通の敵の情報を得られれば良いだけだ」


「ご寛大なお言葉感謝いたします。

では、領主が到着するまで、こちらで把握している情報をお伝えいたしましょう。

おい、頼む。隠さずに全てを開示しろ」


 ゴードン司令に呼ばれて、ひょろっと細い身体の文官のような男が前に出て来た。

情報士官というやつだろうか?


「我が方で把握している敵は、海中に潜った状態で攻撃を仕掛けて来る潜水艦と呼ばれる艦種と断定いたしております。

潜水艦の攻撃により、かなりの数の商船と軍艦が被害を受けております。

潜水艦の発射する魚雷は、自動追尾をかけて来るとの報告もありますが、未確認情報であり眉唾……「そこは今回我が戦艦グラスターが確認した!」」


 戦艦グラスターの艦長が割って入ると魚雷が追尾するとの情報を証言した。

どうやら、沈められた艦の生き残りから魚雷が追ってくるという証言は得ていたが、戦艦グラスターが生き残って証言するまでは、眉唾ものと思われていたようだ。


「……どうやら自動追尾は間違いないようです。

潜水艦は長くは潜っていられず、定期的に浮上する必要があるようです。

その間に発見し、撃沈した事例があります」


 つまり、原子力潜水艦のように潜りっぱなしということは無いようだ。

この世界、魔法が使えるので魔法技術と機械技術のハイブリッドにすれば、同じように長期潜航が可能な潜水艦は実現出来そうだ。

そんな潜水艦でなかっただけ、対処が容易かもしれない。


「一つ質問をしたい。

なぜ潜水艦は海洋性の魔物に襲われない?」


 俺がそう質問すると、情報士官は困ったような顔をした。

ゴードン司令に隠さず全てを開示しろと言われた手前、話して良いものか戸惑っているようだ。


「別に秘密にするようなものではない。

構わないよ。なあ、技術参謀殿」


 ゴードン司令が情報士官に助け船を出す。

しかし、その開示の権限は技術参謀にあるようだ。

どうやら、ここに技術参謀がいたのは、タカオの技術に関して俺たちから情報収集するつもりだったようだ。

それが相手の俺が王様ときた。無理やり吐かせようなどとは行かなくなって黙っているしかなくなった様子だ。


「我が大陸で売っている専門書を見れば載っている情報だ。

ここで教えなくても本屋で普通に知れる内容だろう。

わざわざ話してはいけない内容ではないよ」


 どうやら、俺は間抜けな質問をしてしまったようだ。

そんなことも知らないのかと嫌味を言われたようだ。

だが、そこは違う技術体系なのだ。お互いに尊重して欲しいものだ。

そっちもこちらの得体のしれない兵器に興味津々だからやって来たんだろうに。


「ご許可がいただけたので、お話ししますが、それは海洋性の魔物が忌避する物質を艦体の塗料に混ぜて塗っているからです」


 ほんっとうに簡単な技術だった。

地球でも藤壺を船底につけない塗料というのがあって、後から海洋汚染になると禁止されていたような記憶がある。

だがどうやら、我が方の大陸では使用していない技術のようだ。

それを教えて良いものか情報士官は躊躇したのだろう。

彼らにとって我が大陸の国家は、そんな簡単な技術も教えては拙いと思われている劣等国家だとの認識なのだろう。


「ありがとう。そんなに簡単なのかと拍子抜けするような答えだった。

我が大陸の魔法文化とは、違う技術体系だということを実感したよ」


 おそらく海洋性の魔物は、タカオにその塗料を塗っても襲ってくるだろう。

やつらはタカオの魔導機関に反応しているのだろうからな。


「潜水艦という脅威がお互い共通のものだと確認されたわけだが、その正体はなんだ?

どこの国の手先かは判っているのか?

こちらも輸送船を1隻沈められた。責任の所在はハッキリさせておきたい」


 俺の質問に会議室の中が一瞬凍り付いた。

もしバイゼン共和国の攻撃で沈んでいたならば、その矛先は自分たちに向いていたのだ。

重巡洋艦という名とは裏腹に、タカオは共和国の戦艦を全長で倍近くも上回る。

つまり容積で約8倍、とんでもない巨艦だ。

それに搭載された兵器も海中に潜っている潜水艦を1発で撃破する性能がある。

そんな化け物のよな艦を重巡洋艦と呼ぶからには、キルナール王国にはそれを上回る性能の戦艦があっても不思議ではない。

そう思った西部方面艦隊のお歴々は肝を冷やすのだった。


「我々も沈めた潜水艦の漂流物を調査したのだが、我が国と冷戦状態にあるトラファルガー帝国とも様式が違うのだ。

未だ敵の正体は知れないと申し上げるしかない」


 ゴードン司令が正直に伝えてくれて感謝だな。

キルナール王国を利用しようと、敵はトラファルガー帝国だと言ってもよかったのだ。

そうしないだけでも、この国の海軍が良識ある軍だと再確認できた。


「なるほど、それでは、先ほど沈めた潜水艦を引き上げて調べてみるとしょう」


「「「は?」」」


 彼らはそんなことが出来るのかとポカンと口を開けていた。

魔法文化を嘗めてもらっては困る。

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