第221話 西部方面艦隊司令部1

 考えてみたら、迎えの船にレビテーションで浮いて乗れば良いだけだった。

アイとティアを抱えて飛ぶぐらい簡単なことだった。


 港の沖に停泊するタカオに向けて、化石燃料の動力で動いているらしい舟艇がやって来た。

エンジンを噴かす度に舟艇の真ん中に立っている煙突からは黒い煙が出ていた。

リーンワース王国が中世レベルの文明で帆船を使っているのに対し、こっちの大陸は第一次大戦時ぐらいの文明レベルにある感じだ。

よくもまあ、中世レベルの世界が侵略されなかったものだ。

そこにはどうやら魔法と陸上戦艦の存在が抑止力となっていたらしいが、これなら侵略は時間の問題だったのかもしれない。


「お迎えに上がりました。

えーと、何処に舟を付ければ?」


 舟艇を指揮しているのだろう士官が問い質す。


「ああ、そこで良い」


 俺はアイとティアを両腕に抱えるとタカオの舷側から飛び降りた。


「「キャーーーーー!!」」


 ふたりの悲鳴とは裏腹に、俺の魔法で浮いた身体はゆっくりと舟艇へと降りて行った。

そして舟艇の後部に音もたてずに降り立った。


「ま、魔法!」


 迎えに来た舟艇を操縦していた水兵がポカンと口を開けて驚いていた。

おそらく人生で初めて魔法使いを見たのだろう。


「それでは発進します。おい」


 士官が水兵に促すと、水兵は慌ててスロットルを前に押して舟艇を発進させた。

そのまま右に弧を描くと港へと向かった。



 港への上陸は、さすがに桟橋へと歩いて降りた。

そのまま士官が案内をし、迎えの馬車へと乗り込んだ。

戦艦を動かせるぐらい内燃機関が発達しているのに、人の移動に車を使っていないらしい。

何やらいびつな進化を遂げた文明のようだ。


 馬車は移動を続け、この港で2番目に目立つ建物の敷地に入って行った。

どうやら、俺たちは海軍の司令部に招待されたらしい。

本来ならば領主が迎えに来るところだろうが、そういえば、俺がキルナール王国の国王だって告げてなかった気がする。


 ◇


「こちらへどうぞ。西部方面艦隊司令長官がお会いします」


 そう言われて、会議室のようなところに通されたが、俺には何用でここに呼ばれたのかがわからなかった。


 そこにはがっしりとした体格の大男と、その幕僚と思われる者たちが勢ぞろいしていた。

正面奥に座るのが大男で、長方形の机の左右に金モールを下げた幕僚がずらりと並んでいた。

俺たちは、その大男の正面に位置する長机の端っこに案内された。

所謂下座だ。


「キルナール王国重巡洋艦タカオの使者・・をお連れしました」


 士官が俺たちを紹介する。

タカオの使者と言われたが、まあ間違ってはいない。


「ご苦労」


 そう士官に言うと、大男は俺たちに座るように促して自己紹介を始めた。


「私が西部方面艦隊司令長官のゴードンだ。

我が方の戦艦グラスターを救っていただいたそうで感謝する」


 そう言うと大男――ゴードン司令は俺に自己紹介を求めた。


「キルナール王国重巡洋艦タカオ艦長兼キルナール王国国王のクランド=ササキ=キルナールだ。

我が国の輸送船撃沈事件の捜査をしていてこちらに伺った」


「!」


 俺がキルナール王国国王と名乗ったことで会議室の中は大騒ぎとなった。


「バッカもーん!

キルナール国王陛下を下座に案内するなど、我がバイゼン共和国の汚点じゃ!」


 ゴードンが自ら席を立ち、俺たちを自分の座っていた席に誘導していった。

別に俺は気にしないのだが、アイとティアによると国のメンツというものがあるため、譲ってはならない場面らしい。

そしてゴードンが左右の席へとズレて、会談は始まった。

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