第195話 離れた領地と国民の行く末

 キルナール王国は王都ズイオウ領、東の港湾都市イーハーブを擁するイスダル領、第13ドックのある南方領、キルト王国、ルナトーク王国、ザール王国、ガルフ国と領土が各所に分散してしまっている。

これらの領全てがリーンワース王国ないしは北の大地の小国群により陸路で隔てられている。

ルナトーク王国とイスダル領は大陸の東海岸にあってペリアルテ商国とリーンワース王国領で隔てられているだけであり、海路を使えば思ったよりは近い。

ルナトーク王国開放は何処よりも早かったため、ズイオウ領からの人口流出が起きたのはルナトーク王国の国民が最初だった。


 俺は民に残るか去るかを自由に選択して良いと伝えていた。

武力を盾にズイオウ領への居住を強要することは出来ただろうけど、それでは民は幸せではないと思ったのだ。

一度はズイオウ領で生活していたルナトークの民も、国が奪還されたと聞けば生まれ故郷に帰りたくなるのが人情だ。

ルナトーク王国は北の大地の東海岸に接しているため、キルトやザールに比べてちょっかいをかけてくる敵国や脅威が少なかった。

ウェイデン伯爵率いる第二戦隊が国境線を守っていることもあり、比較的安全が担保されていた。

この戦力も他国を侵略しない限り貸し与えることにした。

群雄割拠の戦国時代に防衛戦力が無ければ、また国を失うことになってしまう。

ウェイデン伯爵や部下が変な野心を持たなければ、防衛は万全となるだろう。


 そう思っていた矢先、ルナトーク王国と商国が衝突してしまった。

ガイアベザル帝国が滅んだと知った商国の民が、何を思ったのか他国の領地を刈り取るチャンスだと蜂起してしまったのだ。

商国に一番近いガイアベザル帝国の占領地はルナトーク王国だと、商国の民は思ったらしい。

既に俺たちにより奪還されたルナトーク王国が、ガイアベザル帝国以上であるとは、商国の首脳部は公表していなかったらしい。

いや、そもそもルナトーク王国が奪還されていることすら、商国の民は知らなかったのだ。


 陸上艦も持っていない前時代的な軍隊が、精鋭である第2戦隊に歯向かったならばどうなるか。

さすがに攻められて反撃するなとは言えないので、その結果、ペリアルテ商国が我が国の属国となってしまった。

ルナトーク王国とイスダル領が陸続きになるのは良い事なのだが、商国を抱えたことはお荷物以外の何物でもなかった。


 閑話休題。祖国に帰りたくない民など、どの国出身の民であろうともほとんどいなかった。

比較的帰りやすかったルナトークの民が去ると、ルナトークの民が携わっていた産業に人がいなくなってしまった。

それは農業と商業だった。

ズイオウ領は出身国により携わる産業に偏りがあった。

その一角が崩壊すれば、残った民も生活が立ち行かなくなる。

急遽慣れない農業に携わることになったザールの民が出ていくのも時間の問題でしかなかった。

ザールは連合国家だったため、ザール王国出身者には行政を担当してもらい、傭兵国家だったガルフ国の出身者には警備や常備軍を担当してもらっていた。

その者たちが農業に転向しても、巧く行くわけがなかった。


 傭兵たちは自由だ。守る民も減った。戦国時代に突入し戦う働く場所は無限にある。

傭兵たちは家族をガルフ国に帰し大陸に散らばって行ってしまった。

ザール王国出身者はバラバラになった連合国家の中枢で働くことが叶わなくなり戸惑っていた。

しかし民の減ったズイオウ領も新たな解放奴隷の受け入れぐらいしか仕事がなくなった。

ザールの官僚ならば、どの新国家であろうとも受け入れてくれるだろう。

そう宛て込んでザール王国の民も一人また一人と去って行った。


 キルトの民は俺に忠誠を誓っていて帰るとは言わなかった。

しかし国に帰りたい気持ちは良くわかっていたので、俺は帰還を無理に促した。

サラーナ以外の唯一の王族、サラーナの叔母であるカリーナさんにキルト王国を任せて、民を家畜と共にキルト王国へと送り届けることになった。

強い男の血が欲しいと迫られたが、俺は鈍感系主人公なのでスルーしておいた。

俺ってチートで強いだけだから、その血に価値なんてあるのだろうか?

しかし、彼ら彼女らを危険に晒すわけにはいかない。

キルト王国はやっかいな魔物がまだまだ大砂漠に残っている。

それを迎撃出来るように陸上艦を派遣した。


 そしてズイオウ領はリーンワース王国内で新たに解放された奴隷を一時的に受け入れる場でしかなくなった。

行政に携わるザールの民と、俺をサポートしようとしてくれるるキルトの民しか残っていない。

旧領土が奪還出来たことでキルナール王国は必要なくなったのだ。

今でもある程度の産業はズイオウ領に残っている。

なので各国間での食料輸送などは未だ活発だった。

食材召喚自動工場とか、農産物促成栽培農園とか、肉ダンジョンとか、他領には無い生命線ともいえる物資をズイオウ領は製造している。

これの輸出だけでズイオウ領は金が入ってくる。

ギルドとの相互両替も開始し、ズイオウ領の電子マネーはこの大陸共通通貨として使えるようになった。

それを支えているのが僅かな武装しか持たない陸上輸送艦での流通網だった。

だが、もし誰かが野心を持って陸上艦を悪用し他国を侵略し始めたら、これらの陸上輸送艦も機能停止させざるを得ない。

陸上輸送艦に搭載している自己防衛用の重力加速砲でさえ他国を侵略するに足る協力な武器なのだ。



 そして嫁たちにの今後の身の振り方だが……。

まずキルト王国勢。

キルトと関係のある嫁はサラーナだ。

サラーナは俺の元に残ると言う。

そのためサラーナの叔母であるカリーナさんをキルト王国の首長として派遣した。

カリーナさんの補佐としてターニャとナランもキルト王国に行ってもらった。

ターニャは陸上巡洋艦の艦長でありキルト王国の守りの要だ。

サラーナの侍女メイドであるアリマは残り、ニルも俺について来るという。


ルナトーク勢。

ルナトークに関係のある嫁はアイリーンだ。

リーゼロッテとティアンナはルナトークに俺の名代として行ってもらうことになった。

彼女たちに陸上巡洋艦を任せることでウェイデン伯爵の暴走を阻止してもらうのが狙いだ。

アイリーンはズイオウ領に残ることになった。シャーロも残るらしい。

もしアイリーンに子供(男)が生まれたならばルナトークの次期国王になる予定だ。


ザール勢。

ザールに関係のある嫁はクラリス。

ミーナはザール解放の戦力としてザールへ行ってもらうしかなかった。

ミーナは陸上航空巡洋艦の艦長でもあり、優秀な戦闘機乗りでもある。

ミーナの下には戦闘機の魅力に取りつかれた獣人たちもいるのでザール防衛はミーナたちの活躍にかかっている。

クラリスはズイオウ領に残った。

クラリスに子が生まれたらも将来ザール王国の跡取りだ。


 残った嫁はサラーナ、アイリーン、クラリス、シンシアの4人。

アイとアンは優秀な臣下という位置づけで嫁ではないが残ってくれた。


 そういえば、シンシアの実家のエルフ氏族は第13ドックのある南方領の一部に組み込まれていたんだったな。

あそこの防衛は第13ドックに任せておけば大丈夫だろう。

北の帝国の脅威が無くなって、皆戦国時代だと勝手なことを始めているけど、南方もその影響を受けそうな感じだ。

この離れた領地を守るために、俺は努力を惜しまないつもりだ。

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