第194話 対ボルダード王国2

 ボルダード王国王都を取り囲む夥しい数の魔物たち、それはMAOシステムにより強化された機械獣と言っても良い代物だった。

その戦力はエリュシオン単艦では太刀打ち出来ないであろう物量だった。

戦うことは出来る。しかし弾薬が切れれば数の脅威に潰されるのは間違いない。

俺は迷わず一時撤退を決断し命令を下そうとした。


「一時撤た……『降伏ずる!』はい?」


 突然ボルダード王国側から音声拡大魔法で告げられたのは降伏の涙声だった。

鼻水を啜っているのかずーずーという音が混じる。


『我々に戦う意思はない。

ボルテア公国の使者に話を聞いた。

ボルテア公国の公子即位の件も了解した。

我が国も彼の国と同じ条件で従おう』


 全面降伏だった。

あれだけの戦力を持ちながら、何が何だかわからない。

とりあえず、降伏文書調印の席が設けられることになった。

しかも、ボルテア公国のような騙し討ちが出来ないようにと、陸上艦の上で調印するという。

まるで日本が戦艦ミズーリ艦上で降伏文書に調印した時のような感じになってしまった。


 降伏文書はキルト王国から奴隷として連れ去られた国民の返還と賠償、国境線の維持というボルテア公国降伏と同様の条件だった。

ボルダード国王が自ら調印し降伏は成立した。

この勢いなら属国化も成立しそうだが、俺はそこまでやる気はない。

これ以上余計な国土や国民を抱えても俺には統治出来ないからだ。

ただでさえ商国というお荷物をウェイデン伯爵が占領してしまったのだ。

頭の痛いことだ。


「それにしても、MAOシステムを持つ魔王勇者の末裔だろうに、どうして戦わずに降伏したのか?」


「我々が魔王と自称した勇者の末裔だと気付いておいででしたか」


 ボルダード国王が驚きの声を上げる。

やはりそうだったのか。


「そりゃ強化された魔物を従わせているからには、関係者だってわかるさ」


「確かに我々は魔王勇者の末裔ですが、魔物をテイムすることは出来ても戦わせるような高度な制御は出来ないのです。

襲って来た魔物の被害を回避するためにテイムしていましたが、既にMAOシステムは失われており、それが無ければ魔物の戦闘制御などとてもとても……」


 どうやら北の遺跡の調査結果にあったように、MAOシステムがこの大陸にはもう存在しないというのは間違いないようだ。

そして魔王勇者の末裔に残された能力は魔物をテイム出来るということだけ。


「するとあの魔物は戦えない?」


「御飾りです。

テイムして、ああやってあそこに居るだけで貴国以外には抑止力となりますからな」


 ボルダード国王が自虐的に言う。

なるほど、群雄割拠の戦国時代に生き残るためには、ああやって戦力を誇示するのも生き残りの手段なのか。

俺もあれを見て一度は撤退を決断したぐらいだからな。

なんだか善良そうな国王だな。ボルテア公国の新公王に似ている。あ、まさか……。


 しかし官僚や国民までが善良とは限らない。

実際に占領軍がキルトの民を奴隷として攫っているんだからな。

それがこの世界の戦争の常識だとしてもやりきれない。


 しかし、これで少なくともキルト王国の国土は回復し、国民の返還も進むだろう。

治安維持のための兵力と抑止力の陸上艦を配置すればキルト王国は復活する。


「あれ? そうなるとズイオウ領のキルトの民はここへ帰るということか?

ザールの民も国を取り戻したからには国民は帰りたいよな」


 俺はある重要な事に気付いた。


「もしかしてキルナール王国の国民はいなくなる?」


 三国まとめてキルナール王国だとしても、国土が分散しているので名目だけになりそうだ。

もしかして、これでまたズイオウ領でスローライフに戻れる?

むしろ王なんて立場は捨ててもいいのかもしれない。


「あ、嫁たちを手放すのは嫌だな」


 彼女たちは国を捨てて王ではなくなったとしても、俺に付いて来てくれるだろうか?

既に情は移っているが、彼女たちにとって祖国奪還は悲願だったはずだ。

彼女たちが離れて行っても受け入れる準備だけはしておくか……。


 そういや、ガイアベザル帝国の後継国家という問題が残っていたな。

虎の威を借る狐の如く、何か勘違いしているようで暴発しそうなんだよな。

面倒だが、対処しないと収まりそうもないな。

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