第191話 対ボルテア公国3
さて、どうしたものか。
公王を殺すのは簡単だが、それによってボルテア公国まで統治すると言うのは勘弁して欲しい。
公国とは、王家の血筋である公爵や大公爵が、自分の領地を独立させて国にしたという経緯を持つ。
つまり、その後ろには本家であるボルダード王国が控えているのだ。
ボルテア公国を滅ぼすか占領したならば、自動的にボルダード王国とも戦争状態となる。
かと言って、俺たちを殺そうとして来たボルテア公王を何の咎も無く見逃したならば、キルナール王国が国としてなめられる。
ボルダード王国を滅ぼすのも我が艦隊にとっては簡単なことだが、後始末をきちんとしないと民に恨まれることになる。
戦いによって乱れた国土や経済の立て直しには金がいる。
それを誰が負担するというのだ。
そのまま放置すれば、それがまた戦乱を生む。
そんなことをしたいとも思わないしする気もない。
俺がボルテア公国に臨むのは、奴隷として連れ去られたキルトの民を返し、被害者にもきちんと謝罪と賠償をし、国境線を回復して争わないでくれるだけでいいんだが……。
北の帝国はそこらへん服従か奴隷か、または皆殺しにしていたようだが、それをやっては俺のメンタルがもたない。
こいつらはたぶん、恐怖で縛らなければ従わない。
問題は俺たちを殺そうとした事実か。
よし、無かったことにしよう。
その代わり、条件を全て飲んでもらって実行の確約をとる。
人を平気で騙すような奴は、約束も破って当たり前だろう。
契約魔法かなんかがあれば……。え? ある?
魔導の極が契約魔法で縛る方法を教えてくれた。
「俺たちを殺そうとしたことは、条件を呑めば見逃してやろう。
キルナール王国はボルテア公国には興味がない。
以下の条件を呑めば好きにしてくれていい」
「なんと? 誠か!?」
「ああ、本当だ。
まず国境線の回復。ガイアベザル帝国に占領される前の国境に戻すこと。
次にキルトの民の返還。奴隷として連れ去られたキルトの民を無事に返せ。
次に賠償金の支払い。これは殺された者や奴隷化されて酷い目に遭った者、財産を奪われた者に対しての賠償金をケースによってこちらで金額を算出する。
それを無条件で支払ってもらう。
これを履行するなら命を助けてもかまわない」
ボルテア公王の顔が驚愕で固まる。
北の帝国が相手だったら処刑されていたところなのに救われて、剰え国土も王権もそのままだという。
ボルテア公王も一瞬混乱したが、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべると首肯した。
「その条件呑もう。いや、呑ませてもらおう!」
ボルテア公王は狡賢そうな笑みを隠しきれていなかった。
約束など後で反故にすれば良いと思っているのだろう。
「この約束には契約魔法をかける。破ったら苦しみながら死ぬ。
その約束は賠償が済むまで代々承継される。
血が繋がっていなくとも公王――これは国家元首ならなんでもありだ――になれば引き継がれる」
俺の言った事にボルテア公王は一瞬焦った顔をするが、何かを思いついたようでニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「ああ、誰かを身代わりにしようとしても無駄だぞ。
公王、この契約はあなたとあなたの子孫が優先される。
身代わりが裏切ればあなたやあなたの子孫が死ぬことになるぞ。
それが命を助ける条件だ。
まあ、あなたが嫌だというならば、あなたを処刑してあなたの息子と契約するだけだ。
どうする?」
ボルテア公王は処刑と聞いて首をブンブン縦に振った。
「喜んで契約いたそう」
その言葉と共に俺は契約魔法を使った。
魔法の光が公王を包むと右手の甲に契約紋が刻まれた。
「契約の実行を遅延させるあるいは反故にしようとすれば、その契約紋が疼き出す。
それでも何もしなければ死ぬ。
疼き出すまで待とうと思うなよ。
慌てて実行するより先に死ぬかもしれないからな」
これは契約というより呪いだ。
和解条件のために一生仕事をしなければ死ぬ呪い。
これぐらいが俺たちを殺そうとした落とし前として充分なんじゃないだろうか。
このことは公王とこの場にいる側近しか知らない。
配下や国民は公王が心変わりしたとしか思わないだろう。
これで統治することなく、望みを叶えることが出来る。
あ、もしバカな配下が国境を越えた場合、そのバカを公王が処罰すれば呪いは実行されないのだろうか?
そのバカの存在を公王が知らなければ呪いはどうなるのだろう?
魔法といっても万能じゃないだろう。
抜け道はあるのかもしれない。
「後はボルダード王国へ紹介状を書いてもらおうか。
ボルテア公国と
そっちも同じようアホなら同じ契約で縛ろう。
あ、これって、商国の連中にも使えるじゃないか!
後で商国の奴らにも同じ契約を結ばせよう。
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