第173話 拠点設置

 大峡谷を抜けた先の北の大地に広がる砂漠地帯、そこを北東に抜けた先が旧キルト王国になる。

俺たちの艦隊は高度を上げることでサンドワームやレッドスコーピオンの襲撃を回避して、遥々砂漠の上空を飛び抜けた。

砂漠地帯の東側には荒野が広がっており、しばらく東に進むと草原地帯に出た。

そここそが旧キルト王国であり、草原の西の端の荒野にその王都はあった。


 王都は王城を取り囲んだ城塞都市で、北の帝国の陸上戦艦の砲撃によって城壁が破られ、中の街は焼かれていた。

城壁の中には仮設の倉庫のようなものが建てられ、焼け残った大きめの屋敷は北の帝国により接収されて使用された形跡があった。

城壁の外には陸上戦艦を着陸させるための広場のようなものが整備され、ここが北の帝国により運営されていたことが伺える。


「ここも破られているな」


 俺たちはその接収されたと思われる建物を見て回っていた。

北の帝国の残党でもいたら、今後の活動に支障が出るので、制圧する必要があったのだ。

その建物には壁に大きな穴が開いていた。

おそらく魔物による襲撃だ。

サンドワームのような大型の魔物はここまでは進出出来なかったうようだが、レッドスコーピオンのような小型から中型の魔物は、王都に駐留していた北の帝国兵を襲いに街まで侵入したようだ。

それが建物のそこかしこに残る乾いた血だまりと帝国製の武器防具という痕跡として見て取れた。


「この砂漠トカゲかレッドスコーピオンの仕業なのでしょうね」


 護衛についてくれたキルト出身の兵が魔物の死骸を検分して言う。

北の帝国の兵も抵抗はしたということだろう。


「生き残りがいるなら事情を聴きたい。

捕まっていたキルトの民でも生きていないものか」


「我らで探索は継続します。同胞が生きていると良いのですが……」


「頼む」


 俺は兵に生き残りの探索を任せると、ここで一番大事な仕事に勤しむことにした。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 街の探索により魔物が狙ったように帝国兵に襲い掛かったことが確認できた。

今のところは陸上戦艦に乗り空中で待機すれば、砂漠の魔物は怖くない。

だが、この地に補給施設を建て、地上に人員を配置するとなるとそうはいかない。

陸上戦艦はいつか北の帝国の帝都へと進出することになるからだ。

まず、ここにも魔物から身を守れる要塞を構築しなければならない。


「とりあえず、キルト王国の王都の城壁を対魔物仕様で修復するか」


 この作業を俺がしているのは、俺の土魔法ぐらいじゃないとこの工事が年スパンの大工事になってしまうからだ。

俺なら生産の極が城壁ぐらいはサクッと造ってくれるのだ。

消費魔力も自動回復分で賄えるので、魔力枯渇にもならない。

俺がてくてく歩いて行けば後ろに城壁が出来上がる。

しかし、この王都の外周は10kmはある。

中に陸上戦艦を20艦は停泊出来る広場を造成しても余りある。


「歩くの面倒だな」


 俺は周囲を見廻し、ミーナをみつけた。


「おーい。ミーナ、墳進型戦闘機FA69に乗せてくれないか?」


 俺は制空権確保で飛ぶ順番を待っていたミーナに墳進型戦闘機FA69に乗せてもらうことにした。

この機体は教導用の複座型だ。

ミーナが一番に墳進型戦闘機FA69に慣れたため、ミーナが教官として後輩に指導をしているのだ。

なのでこの機体がミーナの専用機となっている。

これならあっと言う間に王都を一周できる。


「クランド、ミーナは忙しいにゃ。

火竜のやつが来たら飛ばにゃければにゃらにゃいにゃ」


 飛ぶことに関してはミーナも案外真面目だ。


「大丈夫だ。火竜だって途中で羽休みがいる。

あの砂漠地帯を飛び越えて来ることはないだろう」


「もし来たらどうするにゃ」


「その時は俺を乗せたまま戦え」


 俺がそう言うとミーナが悪い顔をして納得した。


「にゃらいいにゃ」


 墳進型戦闘機FA69ってそんなにヤバいのか?



 ミーナに墳進型戦闘機FA69が簡易空母の甲板からカタパルト発進する。

このカタパルトは俺の米空母のイメージで搭載することにしたものだ。

なにしろ簡易空母の飛行甲板は短い。

フル爆装なら飛び立つことが出来ないのだ。


 ミーナの専用墳進型戦闘機FA69がカタパルトに前輪のギアをかける。

飛行甲板後部には噴煙を受け止める板が立ち上がる。

これも十分に推力を伝えるための仕組み(パクリ)だ。

ミーナが墳進型戦闘機FA69の推力を上げる。

そして、カタパルトが作動すると墳進型戦闘機FA69が急激な加速を開始する。


「がっ!」


 俺はGでシートに押し付けられ肺から空気が抜ける情けない声を上げることになった。

その様子をミーナがニヤニヤしながら鏡越しに見ていた。

それは後方確認用の鏡で、ミーナはこうなることを知っていて観察していたのだ。


「ほらにゃ」


 ミーナは俺には空戦機動は耐えられないだろうと暗に言いたいのだろう。


「大丈夫だ。このまま砂漠に出てくれ。砂漠の堺を北方山脈まで行ってほしい」


「わかったにゃ」


 俺が真面目に依頼すると、ミーナも気を引き締めて指示に従ってくれた。

俺が覚悟の上で乗っているのだと理解してくれたのだろう。


 砂漠地帯は北方山脈から中央山脈まで途切れることなく広がっている。

その砂漠地帯を東に越えた北部に旧キルト王国はある。

その北端を俺たちは目指している。


「ついたにゃ」


「それじゃあ、このまま砂漠の堺を低空で南下してくれ。

サンドワームに気をつけろよ」


「誰に言ってるにゃ? サンドワームにゃんか一発ぶち込んで倒してやるにゃ」


 砂漠の境から砂をインベントリに入れつつ南下する。

この砂が後に城壁の材料となるのだ。

俺のインベントリは目視出来ている物ならば遠隔で収納する能力がある。

眼下の砂漠から砂を収納するなどお手の物だった。


 何度かサンドワームに襲われながら、しばらく南下した。

ミーナの腕は完璧でサンドワームが砂から頭を出す前に重力加速砲をぶち込んでいく。

ついでに死んだサンドワームもインベントリに回収しておく。


「ここらへんで良いだろう」


 そこには旧キルト王国の領土と砂漠の間に大きな谷が形成されていた。

しばらくは砂に埋まらずに谷となってくれるだろう。

これで魔物は大きく迂回しなければ旧キルト王国の領土に入れないはずだ。


「あ、サンドワームが穴に落ちたにゃ」


 ズバン!


 ミーナがサンドワームに重力加速砲をぶち込む。

得意げなミーナの手前、サンドワームは回収しておく。

あまり使い道は無いんだけど、特殊な牙には価値があるらしい。


「よし、王都に戻って王都の城壁の上を飛んでくれ」


「わかったにゃ」


 ミーナが機体を綺麗に旋回させる。


「あの古い城壁の上をゆっくり飛んでくれ」


 まず古い城壁を回収してしまう。

これも城壁の材料になるからだ。

一周すると王都の城壁は跡形もなくなっていた。


「このままゆっくり王都の周囲を飛んでくれ。

土魔法で城壁を造ってしまう」


「わかったにゃ」


 俺は土魔法で陸上戦艦の装甲と同じ謎物質製の城壁を造り上げていく。

ミーナが飛ばす墳進型戦闘機FA69の後方に次々と城壁が立ち上がっていく。

一周するだけで新しい城壁が出来ていた。

城門は東側にのみ作った。

魔物の攻撃を受ける西側は継ぎ目のない鉄壁の守りとする。


「あそこの城壁の上はキルトタルの飛行甲板並みの広さにしといた。降りられるか?」


 俺が指さしたのは西側正面の城壁。


「問題にゃいにゃ」


 ミーナが墳進型戦闘機FA69を綺麗に着陸――いや、着壁?――させる。

ドヤ顔を見せるミーナに俺はサムズアップで答えた。

この世界、サムズアップは良い意味で伝わる。

地球では国によっては侮辱になるらしいのでハンドサインは注意が必要なのだ。


「ここはベヒモスの甲羅で補強する」


 インベントリからベヒモスの甲羅を出し、そのまま謎物質で固める。


「よし、次は東側だ」


 東側にはベヒモスの甲羅を加工した門扉を設置した。

城壁で一番薄い場所だ。ここの強度は上げておくに限る。


「出来たぞ」


「面白かったにゃ」


「俺も最高の乗り心地だった」


 俺が調子に乗って褒めたのがいけなかった。


「そうか? にゃらこんにゃのはどうかにゃ?」


 ミーナがフルスロットルで墳進型戦闘機FA69を飛ばした。


「うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 ジェットコースターを遥かに上回るアクロバット飛行だった。

死ぬかと思った。


 こうして、たった1日でキルト王国王都の城壁は復活した。

ここを拠点に北の帝国の帝都の制圧と魔物の湧き点を探すつもりだ。

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