第107話 帰路
ガルムドの航行データから北の帝国の進入路がわかった。
大陸を東西に貫く山脈、唯一の通り道である峡谷には、リーンワース王国の国境の街ボルダルの要塞がある。
前回はそこをリグルドが制圧してルドヴェガース要塞まで侵攻して来たわけだ。
リーンワース王国は俺から買った蒸気砲でルドヴェガース要塞を防衛しリグルドを撃破。
戦略の要であるリグルドを失った北の帝国は、峡谷にあるボルダルの要塞の占領を維持することが出来なくなり明け渡すこととなった。
そのためだろうか、北の帝国はボルダルの要塞を危険だと判断し、ガルムドには峡谷を突破させずに山脈を大きく迂回し、西の海岸から南下して第13ドックを目指して来ていた。
蒸気砲の脅威を避け、ビーコンに誘導された地を早急に調査するためには、そのコースしか残されていなかったのだろう。
ちなみにニムルドが侵入したコースはデータが破損していて判らなかった。
唯一ビーコンや通信などの信号受信のみが可能で、それに頼って第13ドックのあるこの地までやって来たようだ。
もし、次の調査に陸上戦艦が派遣されるとしても、ガルムドを失ったことを把握するまでの時間と、また同じコースを辿る時間を考えれば1か月は猶予があるだろう。
第13ドックのビーコンは既に切られており、ガルムドが調査結果を持ち帰ることも無いので、第13ドックの大まかな位置は知られたが、詳細位置は秘匿できたと見ていいだろう。
しかし、更なる問題が発生した。
俺たちが運用している陸上戦艦の通信が傍受されている可能性だ。
ニムルドとガルムドの魔導通信機は僅かながら受信のみ機能していた。
これは陸上戦艦の構造物全体が受信アンテナとして機能していたからだろう。
陸上戦艦の通信は圧縮通信のため、デコード出来なければ内容はわからない。
幸い、北の帝国の陸上戦艦は使用者の管理者権限が低いらしくシステムがそこまで高度な機能を解放していない。
艦の運用も長年の解析で無理やりハードウェアを追加改造して動かしているという状態だった。
ちなみに、この改造は故障と判断され一部以外は取り払われていた。
伝声管はアナログでちょっと便利なので、俺の我儘で残してもらった。
話が逸れたが、つまり通信内容は把握出来なくても、通信が発せられている場所には向かって来れるということだ。
三角測量をすることでこの世界でも大まかな位置は掴めるだろう。
ここで、問題となるのは、新たな発信源が発生したら、北の帝国はそこに遺跡あるいは遺跡の出土品があると判断する。
北の帝国は、漏れなくそこに向かって陸上戦艦を派遣し調査しに来るということだ。
第13ドックの側ならまだしも、ズイオウ領で発信したのは拙かった。
そしてキルトタルがポイント11で敵味方識別信号を発信したことも調査に来られる可能性が高い。
俺の推測だが、魔導機関が高エネルギーを発した場合も同様に観測されていると思う。
これがニムルドが魔の森へと調査に来た原因だろうと思っている。
迂闊だったが、ルナワルドの重力制御機関始動も観測されているはず。
つまり既に調査目的の北の帝国の陸上戦艦が、ポイント11やズイオウ領に向かっていると見ていいだろう。
防衛のために動いたことが、敵を呼び込むことになっていた。
今後も陸上戦艦を使い続けるなら、北の帝国と敵対するのは宿命となるだろう。
まあ、相手の陸上戦艦を既に2隻奪っている時点で、既に敵対関係以外の何ものでもないんだけどね。
それにうちの国民は北の帝国に身内を殺され国土を奪われた被害者ばかり。
北の帝国とは敵対する未来しか残ってないな。
そんな理由から、俺はズイオウ領への帰還を急ぐことになった。
帰り道に寄るつもりだったリーンワース王国王都はスルー。
クラリスはズイオウ領に帰ってから転移で迎えに行くことにした。
まあ、クラリスには漏れなく女スパイが付いて来るので、陸上戦艦に乗せるのも問題だったんだけどね。
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