第106話 第13ドック6

 1週間が経ち、輸送艦が竣工した。

輸送艦の側面にはキルト=ルナトーク=ザールの国旗が描かれ、艦首と艦尾にも国旗がはためいている。

このペンキは俺が錬成して提供したのだが、第13ドックの工場は簡単に複製して見せた。

ちなみに鹵獲したガルムドと、第13ドックに配備されていた戦闘艦――エルシークという名だ――の側面にも同様に国旗が描かれ、艦首艦尾に国旗が掲揚されている。

今後新造される戦闘艦にも随時描かれるそうだ。


 この輸送艦にはキルトタルの連装魔導砲塔と食肉鮮魚工場の基幹部品が梱包されて載っている。

実はキルトタルの連装魔導砲塔は、1基手に入れたら俺がもう1基をポイント11で手に入れた部品を使って錬成で複製するつもりだった。

だが、第13ドックでは、キルトタル用の連装魔導砲塔をフル装備分の2基用意してくれていたのだ。

現物があるなら錬成するより早いので、持ち帰ることにした。

ここでも輸送艦の建造が良い結果に繋がった。


 ちなみに俺はこの間、毎朝ズイオウ領に転移して領地で起こったトラブル解決や奴隷解放などの業務に勤しんでいた。

ニルのワイバーン騎兵隊はルナワルドに搭載されたワイバーンの世話をし、ティアは騎士たちと訓練をしていた。

第13ドックには地球のような特殊部隊装備が充実していて騎士の特殊部隊化が進み過ぎた気がする。

戦闘服、ボディアーマー、ヘルメットにゴーグル、特殊なブーツ、ごっついナイフはまだいい。

自動小銃だけは拙い。これをみつけたが皆には内緒にした。

殺傷力が高すぎるし、これは魔法を使えない者たちには魔術師を殺せる画期的な武器となりかねない。

彼らにはパラライズが丁度良い。


 なので俺たちは第13ドックで無駄に時を過ごしたわけではないのだ。


 第13ドックに来てから12日目、とうとうズイオウ領に帰還することになった。

ルナワルドの後部甲板にはキルトタル用の連装魔導砲塔が2基載っている。

そう2基。実はこれが輸送艦の新機能だった。

そのままでも独立して移動出来る全通甲板を持った輸送艦が、後ろ向きでルナワルドの後部に連結しているのだ。

輸送艦を造っても、運用する人員は訓練などの関係でまだ割り振れないので、この艦の単艦運用は諦めたのだ。

となると、無人運用しなければならなくなるが、無人運用では北の帝国とのトラブルなどの緊急時対応が問題となる。

その時、無人でも良い方法というのを考えた結果が、有人艦の後ろに連結して運ぶということだった。

見た目もかなり一体化するように調整した。

そのためルナワルドの後部が長くなった――全長130m――だけのように見えている。

ルナワルドは後部に広大な飛行甲板を持ったまるで航空巡洋艦のような出で立ちになっている。


 ルナワルド+輸送艦を先頭に第13ドックの出入口となる隔壁へと通路を進む。

後ろにはガルムドが従う。

ちなみにガルムドの艦橋にはティア他5名の騎士に乗ってもらっている。

ルナワルドとガルムドのシステムコンソールは王国公用語対応にバージョンアップされているためティアでも運用可能なのだ。

もちろん管理者として俺がティアに一部権限を譲渡しているからこそ出来ることだ。

しかし、このまま戦闘まで出来るとは思っていない。単なる運搬要員としての搭乗だ。

この王国公用語バージョンアップソフトはキルトタル用も手に入れている。


 下部隔壁を抜け竪穴を浮上すると上部隔壁がスライドして開き地上に出た。

ガルムドが下部隔壁を出ると下部隔壁が閉まる。

そこにもキルト=ルナトーク=ザールの国旗が描かれている。

この施設の所有権の主張だ。

続けてガルムドが浮上し、上部隔壁の上に出た。

上部隔壁が閉まる。上部隔壁は周囲の荒れ地に溶け込むように偽装が施してある。

これで北の帝国がウロウロしていても容易には見つけられないだろう。

もし見つけてちょっかいを出して来たら、地下から魔導砲を競り上げて殲滅する。


 ここまで機能を維持しているとは、素晴らしい施設を手に入れた。

リーンワース王国には、この地の所有権を主張しておこう。

所謂我が国の飛び地だ。

元々蛮族の支配地と言われていた場所だし、リーンワース王国も反対はしないだろう。

キルト=ルナトーク=ザール王国はここに初めて自ら開拓した領地を得た。

蛮族? 彼らは国家として国土を持っているわけではないので、国民になりたいなら迎えるつもりだ。

これがこの世界のルール。都合よく使わせてもらおう。

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