第22話 魔導機関始動

『緊急警報! 緊急警報! 魔導機関の不調により魔力バーストの可能性。

管理者はただちに魔導機関の再起動を行ってください。緊急警報!~』


 けたたましい警報音にたたき起こされたのは、農園の運営が上手く回るようになったある日のことだった。

そういえば魔導機関の調整をずっと後回しにしていたな。


「警報解除! 煩くてかなわん。システムコンソール、何が起きている。どうすればいい」


『魔導機関が長期に亘りスクラムしていたため、余剰魔力が回路に蓄積しすぎたのです。

魔力を強制排出し魔導機関を立ち上げ直してください』


 なんとまたやっかいな……。


「今まではどうしていた?」


『誰も対応しなかったので、最終的に魔力バーストを起こし、ここら辺一帯が吹き飛んでいました』


 ちょっと待て、ここら辺一帯が吹き飛ぶだって?


「俺の農園や牧場が吹き飛ぶのか!」


『そうなります。魔力を速やかに強制排出し魔導機関を立ち上げ直してください』


あるじ様……」


 屋敷の上階から降りてきたサラーナも他のみんなも警報音に怯え、不安がっている。

ただガイア帝国語は俺にしか意味がわからないので、農園の危機だということは知られていない。

だが、良くないことが起きているだろう事は誰の眼にも明らかだ。


「大丈夫。俺が対処してくる。ただ外は危ないからサラーナ達はここから出ないようにしてくれ」


 過去に魔力バーストが起こって、この一帯が吹き飛んだはずなのに、この遺跡は破壊されずに残っている。

つまり、遺跡内にいれば助かる可能性が高いはずだ。


「危ないのですか?」


「牛たちは……」


「俺がなんとかしてくればいいだけだ。万が一のことだ。大丈夫、安心しろ」


 さて、早急にどうにかしないとならないようだ。


「システムコンソール、案内しろ」


 俺はモバイル端末を持つと下に降りる準備を整え、自身に【レビテーション】をかけた。

俺の横にはいつのまにかプチが来て【レビテーション】で浮いている。


「プチ、おまえはサラーナ達を守れ。おまえがここのナンバー2だということを忘れるな」


わんわかったわわんがんばる


「いいこだ」



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 モバイル端末のナビゲーションに従って下層に降りて来た。

相変わらず床が斜めのため、ずっと【レビテーション】で浮いて、風魔法を推進力として移動する。

しばらく進むと目的地である重厚な隔壁の前に到着した。

俺の目の前には閉じられた隔壁とコンソールがある。

遥か先の床には門番だったのだろうか? ゴーレムが落下して壊れていた。

コンソールを操作するための足場を土魔法で作り、そこへと立つ。

俺はコンソール画面を覗き込む。


『魔導機関区閉鎖中 許可なき者の立ち入り禁止 魔力バースト警報発令中』


 コンソールには赤い文字で警報が出ている。

おそらく操作方法は上のシステムコンソールと同じ。

ならば操作キーとなる魔力パターンのスキャン装置があるはずだ。

上のコンソールと同様の位置にスキャンパネルをみつけた。

そこに俺は手のひらを当て、魔力パターンをスキャンさせた。


『管理者クランドと確認。魔導機関の調整をお願いします』


『システムコンソール、どうしたらいい?』


 俺はこの端末にも言葉が通じるようにガイア帝国語を使った。

上のコンソールのように現在の標準語が通じるかわからなかったからだ。

それに俺は魔導機関の調整手順なんて何一つ知らない。

この端末に問い合わせるのと同時に、モバイル端末を介してシステムコンソールにも問い合わせる。


『まずは緊急弁を開いて魔力バーストを回避してください』


 俺はふと疑問に思って聞いた。


『そちらからは操作出来ないのか?』


『セキュリティにより、管理者の直接操作が必要なのです』


『そうなのか。地上への影響は?』


『ありません』


 俺はシステムコンソールの指示に従い、目の前の魔導機関コンソールに向かって直接操作を始める。


『システムコマンド、緊急弁解放』


 俺の音声命令で緊急弁が開き、余剰魔力が放出される。


『続けて、魔導機関の緊急停止措置をキャンセルしてください』


 大丈夫なのか?


『大丈夫なんだろうな?』


『何の問題もありません。現在魔導機関は正常です』


 疑いつつも、俺は魔導機関の緊急停止をキャンセルする。 


『システムコマンド、魔導機関緊急停止をキャンセル』


『続けて魔導機関の起動準備をしてください」 


 ここまで来たら、動かすしかないか。


『システムコマンド、魔導機関起動準備』


「つっ!」


 その時、スキャンパネルを通じて魔導機関から俺に何らかのエネルギーが注入された。

それに伴い手の甲に紋章が浮かび上がる。


『起動準備完了。カウントダウン開始』


 コンソールから応答があり、魔導機関から微かな振動がし、徐々に振動が大きくなっていく。


『5、4、3、2、1、魔導機関起動準備完了、起動許可要請!』


『システムコマンド、魔導機関起動!』


 俺はシステムコンソールの指示に従い魔導機関の起動を発令した。


ズン!


 その時、人の五感以外の何かをザワつかせる感覚が俺を襲った。

変な波が身体を通り抜けた感じか。


『魔導機関起動。魔力ストレージ充填開始。

重力制御レビテーション機関、第一、第二、第三、第四作動。艦体起こします』


「え? 何をするって?」


 俺は未知の感覚を受けたショックでシステム音声を聞き逃してしまった。

ズズズと唸る地響きと共に部屋の傾斜が復元していく。


「そうか、魔導機関を直せば傾きを戻せると言っていたな」


 俺はそれが起きているのだと理解した。

しばらくすると傾斜が解消され、地響きは止まった。

魔導機関はスムーズな駆動音に移行し安定したようだ。


『これで問題ないんだな?』


 俺はシステムコンソールに尋ねる。


『はい。全艦異常ありません』


 帰り道、俺は斜め状態で移動できるようにと、以前に設置した土魔法の階段を回収しながら戻った。

遺跡の傾斜が解消された結果、俺のねぐらである主寝室は塔の最上階となっていた。

魔導機関が起動したため、以前はスロープになっていたエレベーターホールに浮上床フロートパネルが浮いていた。

これで最上階まで上がれるのだろう。


「でもこの穴は塞いじゃったんだよな」


 俺は渋々階段を上ることにした。

そして、到着した主寝室で惨劇を目撃することとなった。


「サラーナ、みんな、大丈夫か!」


 そう、斜めだった床を水平に修正していた土魔法の床は、元が水平になると逆に斜めになるのだ。

急に傾斜・・した床に、嫁たちが転がり落ちてしまったのだ。


わんわんだいじょうぶだよ


 そこにはみんなの下敷きになった3mサイズの聖獣モードのプチがいた。

プチがクッションになってみんなを助けたのだ。


「プチ、偉いぞ」


 幸い、落下した家具の被害はなかった。

プチが【レビテーション】をかけて家具の落下をコントロールしたのだ。

俺は土魔法を解除して床の水平を回復し、家具を元の位置に戻した。

それに伴い、エレベーターホールにフロートパネルが上がり穴を塞いだ。

今後はエレベーターが使えるようになる。


 そういえば、ここと繋がっていた屋敷は……。

1階へと階段で繋がっていた穴から外を覗くと、塔の下方に半壊した屋敷が見えた。

俺の主寝室は予想通り塔の最上階で、遺跡の傾きが是正されたために、塔は地面から突き出て農園に立ち上がっていた。

その際に、屋敷はここが地下室として繋がっていたせいで破壊。今に至る。

農園や牧場も傾斜を戻すときの地震で被害を受けていた。

パニックになったワイバーンがギャアギャア鳴いている。


 これから俺は農園の復旧作業をしなければならない。

遺跡の上の地面は割れ、元々平地だった土地は傾斜が付いてしまっていた。

その膨大な後始末を思い、俺は憂鬱な気分になった。

地上には影響がないと言っていたのに、あれは魔力放出のことだけだったのか……。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



某所 某帝国



「魔力放出と魔導機関起動の干渉波を観測しました」


 コンソールにかじりついていた操作員が報告する。


「どこだ?」


 操作員に対し、一際豪華な飾りの付いた華美な軍服を着た男が、顎で先を促す。


「中央山脈の向こう側、魔の森と言われている森の方角です」


「未知の遺跡が起動したのか」


 操作員の報告に肩に金モールのついた男が驚きの声を上げる。

そこはクランドがねぐらとしている塔と同じ作りの部屋だった。

システムコンソールがあり、そこに何やら不格好な魔導具が繋げられていた。


「よし、ニムルド発進準備だ。根こそぎ奪うぞ」


 ズンという未知の波動が男たちの身体を通り抜ける。

それは紛れもない魔導機関の起動干渉波だった。


 華美な軍服の男の命令で艦が動き出す。

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