第12話 装甲車修理
翌日、ルーティンの畑仕事の後、装甲車の修理を行うことにした。
お出かけは、森の中には車を移動させられるような道がないので、森を出るまでは聖獣モードのプチに乗っていくつもり。
だが、さすがに町の近くで聖獣モードのプチを見せるわけにはいかないので、平原では馬車に偽装した装甲車を使おうというのだ。
街道は通らず、平原をそのまま装甲車で移動してしまおうかと思っている。
装甲車を町の手前でインベントリに収納して隠してしまえば目撃者もなく問題ないはず。
目撃されても、馬車に偽装されていれば馬がいないことなど些細なことだろう。
インベントリに入れていた装甲車を作業場として地均しをした床の上に出す。
床は表面はコンクリートとまでいかないが、地面を50cmほど石化させておいてある。
これは、装甲車の下に入らなければならなくなった時に、泥だらけにならないための布石だ。石だけに。
装甲車の状態は長時間放置されていたにしては良い方だろう。
装甲車が落ちていた部屋は時間停止機能が切れていたようなのだが、装甲車本体に付与された状態保存の魔法により緩やかに劣化していったようだ。
だがこのまま使おうという点ではかなり酷い状態だ。
ボディは状態保存の魔法と錬金金属によって原型を留めている。
遺跡が傾いたことによる落下のダメージもほとんどない。
問題は消耗品であるタイヤ。
強化魔法がかかっていたようだが、経年劣化でボロボロになっている。
装甲車は六輪の装輪装甲車タイプで、タイヤが無いと動かせないのは困ったところ。
備品倉庫に予備タイヤがあったが数が足りていなかった。
以前俺は錬金術による錬成でスコップを創造したことがあったが、あれはインベントリ内にあった鉄と木材、そして付与魔法のための魔法陣を書くための僅かばかりのミスリルで創られたものだ。
材料が揃っていなければ使えないと見て良いだろう。
錬金術は等価交換だというルールはこの世界でも適用されていると推察できる。
(作者注:主人公の思い込みです。余計な知識が可能性を狭めている状態です)
ゴムの木を探して天然ゴムでタイヤを錬成する?
合成ゴムでなければ、確か強度を上げるために硫黄も必要だったのでは?
追々やるべきことかもしれないけど、早急に用意できるようなものではない。
しかも、俺も正しい知識を持っていないし、この世界(ガイア帝国除く)にゴム製品が存在していなければ、生産の極でもタイヤは作れないかもしれない。
無い知識は発揮できないのだ。
「仕方ない。タイヤは諦めて、戦車の
前輪がタイヤで後輪が
駆動部が
形的にはあの感じにしよう。
ここまでして、町に何を買いに行こうというのかと思うかもしれない。
そこには切羽詰まった問題があるのだ。
食住はなんとかなったが、衣がまだだという話は以前もしたと思うが、衣の最重要課題が下着なのだ。
【クリーン】で清潔に出来るとはいえ、替えのパンツすら無いってどう思う?
早急に対策が必要なのである。
それとゴーレムに牧場を任せてわかった事実。
ゴーレムと生き物を直接接触させてはいけない。
機械と生物の相性が最悪なのだ。
ちょっとした接触で家畜が傷ついてしまうので、ゴーレムの仕事は掃除と餌運びになってしまっている。
今後ジャージー牛が妊娠して、子牛の出産を補助するとなったら、全金属のゴーレムには荷が重すぎる。
スプラッターな想像しかできない。早急に酪農経験のある人材が必要だ。
これは遺跡と農場の秘匿という観点から守秘義務を魔法的に守らせることの出来る奴隷に頼るのが一番簡単だろう。
あ、この世界に、奴隷居るよね?
俺が神様に望んだ、”ラノベ的な剣と魔法の中世レベルの異世界”ならば、たぶん居てもおかしくないはず。
ラノベでも人道的に問題のある搾取奴隷から、人材派遣的な丁稚奉公とも取れる契約奴隷まであるが、この世界はどんなタイプの奴隷なんだろうね。
まあ、守秘義務を守ってもらえる契約魔法なんかがあれば、奴隷でなく単純に人を雇っても良いわけだしね。
俺はついにボッチを脱却して、家畜のために現地人を農場の住人にする決意をしたのだ。
あとカレーがあまり美味しくない。
小麦粉を獣脂で炒めてカレーを作ったのだが、風味が微妙なのだ。
やはりバターが必要だと痛感した。
日本のカレールーは奥が深いとしみじみ思う。
生活の充実のためにはバターやチーズなどの乳製品が必要だ。
乳牛はいるが、まだ妊娠していないので牛乳を搾れず、乳製品を入手できないのだ。
これも町で購入したい。食の充実は生活を豊かにするからね。
そんなわけで装甲車を修理しなければならないという使命に俺は燃えているのだ。
その強い意志に対して生産の極が威力を発揮する。
装甲車の隣にラスコー級戦車を出すと状態をチェックする。
この戦車も状態保存の魔法がかかっていて、特に金属部品の状態が良い。
生産の極によって、見ただけで砲塔を取り外す方法がわかった。
砲塔の旋回機構が、修理が容易なようにユニット化されていたので、がっつり取り除く。
主砲へと延びるエネルギーチューブを主砲側のコネクタから抜いてとりあえずボディの中に突っ込む。
これで砲塔が自由になったので、【レビテーション】で浮かせて取り外す。
主砲は、砲塔側に固定されているので、そのままにしておく。
続けて上部に装甲車のボディを乗せるイメージで作業をする。
元々無人戦車だったようで、人の搭乗スペースが必要だったのだ。
戦車の上部装甲を錬金術で剥がし、車台を装甲車のボディと結合させる。
ここらへんは錬金魔法で金属ごと加工する。
ねじ止めなら俺にも出来ると思っていたが、これはまるで溶接だ。
戦車と装甲車のボディが同じ金属から切り出したかのように融合している。
続けて見た
金属の表面を布っぽく見せるという錬金術の荒業だ。
あとは操縦系をどうするかだ。
駆動部は全て戦車上にあり、その駆動部を制御しているのは戦車側に搭載されている人工知能なので、元々の装甲車の操縦席からどう制御するのかが問題だった。
そこで頭に浮かんだのはリモコンだった。
戦車は人工知能の制御で自動操縦を行っていた。
装甲車の操縦システムからモバイル端末を介して、戦車の人工知能に指示を出せるようにするのはどうだろうか?
本来なら有線で直接操縦データを送れれば良いのだが、それよりモバイル端末の通信機能を使った方が便利だと思ったのだ。
もしもの時のために、音声命令も受け付けるようにしておく。
緊急ブレーキだけは操作でも音声でも使いたいからね。
人工知能に任せれば自律機動、つまり自動運転も出来る。はずだ。
燃料は戦車の中に動力炉があるようだ。その動力炉はまだ生きている。
座席は、一応操縦席として前に二席、その後ろに三人掛けのフカフカのベンチシートを二列。
これは背もたれを倒して繋げると座面がフラットになるやつだ。
キャンピングカーのように寝られるようにしようと思ったのだ。
その後ろに荷台。ハッチバックで開けられるようにしておく。
これなら長距離遠征も可能だろう。
あれこれ弄り回した結果、なんとなく形になった。
「早速平原で試運転だな。プチ、平原まで行くぞ」
装甲車をインベントリに収納すると俺はプチに声をかけた。
「さんぽ? さんぽなの?」
プチが3mの聖獣モードになる。
俺が背に乗るとプチが走り出す。
「平原まで1時間か。転移魔法でも使えれば……」
頭の中に転移魔法の魔法式が思い浮かぶ。
魔導の極さんの仕事だろう。
「使えるのかよ!」
まあ、俺のJOBは大賢者だもんな。使えるだろうさ。
だが、プチの散歩でもあるんのだから、そのまま1時間プチに付き合うことにした。
「よしプチ、南へGOだ!」
「おー!」
プチと俺は風になった。
平原につくとインベントリから装甲車を出す。
「さあ試運転だ!」
俺とプチは操縦席のドアを開けると操縦席に乗り込む。
動力炉により魔導機関が待機状態になっている。
「ああ、これってキーとか付けた方が良かったな」
俺には防犯意識が欠けていたようだ。
こういった問題点を見つけて潰していくのも試運転の仕事なんだろうな。
内燃機関のエンジンと違って魔導機関は駆動音がしない。
電気自動車がバッテリー駆動するのに近い静穏性かもしれない。
俺はゆっくりアクセルを踏む。
ギャリギャリギャリギャリ!
すると思った以上の騒音が……。
ハンドルを回すと前輪のタイヤが動くと同時に左右の
それによりコースが変わる。問題ない。
ガコン!
その時大きな衝撃がボディに走った。
俺は装甲車を止めると装甲車を降り、前方にまわった。
どうやら草に隠れた岩に当たったようだ。
この平原の草地には相当数の岩が隠れているようだ。
「うーん。このままじゃ、速度を上げたら事故になるな」
俺は困ってしまった。
今は試運転でスピードが出ていなかったから良かったが、最高速度が出ていたら大事故だった。
何かセンサーで避けるか。
そういや無人戦車は元々どうやって避けてたんだ?
ふと気づいて俺は自動運転を試してみた。
「勝手に岩を避けてる……」
どうやらセンサーなりなんなりでしっかり前方を精査して自動操縦をしているらしい。
センサーが生きていて良かった。死んでいたらまた事故だったな。
これは人より有能だ。これは人が運転しない方がいいのかもしれない。
「これなら安心だな。このまま町へ向かうぞ」
操縦システムが音声命令に従って装甲車を町に向かわせるために進路変更を始めた。
町の位置はモバイル端末からワイバーンの偵察結果を入手したらしい。
あの偵察で周辺の簡単な地図が出来上がっていたっけ。
何この自動運転システム。地球より進んでないか?
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