第11話 偵察
俺は神様に、あまり人の寄らない森の側の土地でスローライフをしたいと要求した。
スローライフは世捨て人ではないので、少なくとも人と接触する可能性がある土地ではあるはずだ。
神様が俺を殺そうと思ってここに送り付けたのではないのなら、そう遠くない場所に人の居住地があってもいいはずだ。
俺は町へ買い出しを行こうと思い、周囲の偵察を計画した。
せっかく羊を飼ったものの、羊毛から衣服を作り上げるにはそれなりの技術と期間が必要だと気付いた。
それに毛糸の下着は暑そうだしチクチクして着心地が悪そうだ。
そう、俺が今必要としているのは替えの下着なのだ。
いや服がいらないという意味ではない。一番深刻なのが下着不足だということだ。
生活魔法の【クリーン】で清潔に出来るとはいえ、同じ下着を着続けるのは結構苦痛だったのだ。
早急に作れないなら買うしかない。それこそまさに町への買い出しが必要だという切実な理由なのだ。
まずは町の所在の確認。そして移動手段の確保だ。
牧場作業と農作業の一部をゴーレムに丸投げし、多少の自由になる時間を得た俺は、まず町の所在を確認することにした。
今取り得る最速の移動手段といえばこれだ。
「プチ、外を探検するぞ」
「ご主人、ご主人。さんぽか? さんぽ?」
「まあ、そう言えなくもないな」
プチが俺の足元に纏わりつき嬉しそうに走りまわる。
「プチ、俺を乗せられる大きさになって森へGOだ!」
「おー!」
プチが3mの
俺がその背中に乗ると同時にプチが走り出した。
「わわ。ちょっと待て、まだ出入口の跳ね橋を降ろして……」
そう言っているうちに、プチは塀と空堀を軽々と飛び越え森へと入っていた。
「いや、いい……」
立ち止まって「なに? なに?」と首を傾げたプチに俺は何も言うことが出来なかった。
「森がどこまで広がっているか確認するぞ。まずは南へ向かう」
「おー!」
プチと俺は風になった。
南へ向かうこと1時間、俺とプチは森の南端へと辿り着いた。
時間はモバイル端末で知ることが出来るようになった。
この世界の時間は、地球と同じで1日24時間だ。時分秒という単位も共通している。
ゲーム的なスキルシステムといい、時間といい、距離の単位といい地球の文化を参考にした形跡がある。
神様が地球を参考にした世界、そう言われても不思議ではない一致が各所に見られる。
森を抜けた先は見渡す限り平原が広がり、所々小さな森が点在しているようだ。
モバイル端末には自動マッピング機能があり、森の端までの道が記録されていた。
それによると距離はおよそ100km。
つまりプチは時速100km以上で駆け回ったということだ。
そう駆け回ったのだ。
途中プチは魔物を狩りつつ進んだのだから……。
「お肉いっぱい。ごはん。ごはん」
プチが狩り、俺が【自動拾得】する。
そんな寄り道を続けつつ、直線距離は100kmも移動したのだ。
「えらいぞ、プチ」
俺は脚をガクガクさせながらプチを褒めた。
今後プチに乗る時は鞍をつけないと厳しいかもしれない。
食事休憩をはさみ、次の探索へ向かう。
「次は森の外周を把握するぞ。今度はゆっくりな。こっちだ」
「おー!」
俺達は東に向かって移動を始めた。
2時間ほど移動すると大きな川に辿り着いた。
川幅は30mぐらいあるだろうか?
森は川の対岸へも続いている。
川には橋のような人工物は見当たらない。
「東側はここまでのようだな」
森の拠点から3時間。今日はここまでだな。
戻る時間を考えるとこの辺で打ち切って帰ろう。
森は暗くなるのが早いのだ。
「プチ、今日はここまでで帰るぞ」
「おー!」
プチはそのまま森に突入した。
拠点でショートカットするつもりだ。
危なくはないのだが、ビュンビュンと左右を流れていく大木を横目に、俺はしがみつくのに必死で体力を奪われ続ける。
拠点に帰り着くと、俺はどっと疲れが出て倒れ込み
そんな
拠点から南に100kmに平原、東に200kmに川、西は200km以上(時間的に探索打ち切り)森が続き、北は100kmで山地になっている。
川は山地の中央から流れていて、東の川は北から南へ、西の川は北から南西へ向かって流れているようだ。
なので地理的に町を探すなら川に挟まれた南東から南西ということになる。
さてどうするか。
さすがに何日も放浪するわけにはいかない。
遺跡に偵察に利用できるドローンでもないだろうか?
「システムコンソール、空中偵察機ってないか?」
車庫に戦車もあったような遺跡だ。航空機があっても不思議じゃない。
『ありません。全機未帰還です』
マジで過去にはあったのかよ。
『プチ様にモバイル端末を持たせれば自動マッピング出来ます』
「それはダメだ」
プチに行かせるのは論外だ。プチが人に襲われたらどうするんだ。
プチは人間を危険な存在だと思っていないので、無防備になってしまいかねない。。
この世界の人間がどんな文化を持っているかわからないのだ。
ラノベでも狼を食べるという描写があったりする。
犬を食べるような種族がいたら危なくてプチひとりだけには出来ない。
小型動物=肉という認識だったら犬は食べられてしまう可能性がある。
「大事なプチをそんな危険な目に合わせられるわけない!」
そこで、俺ははたと思い出した。俺には召喚魔法があると。
「鳥類を召喚して偵察させよう!」
俺はモバイル端末を運べるだけの大きさを持ち、長距離を飛べる鳥の召喚を試みた。
「【召喚】!」
召喚には成功した。
ざっくりとしたイメージで召喚魔法を使ったのがいけなかったのだろう。
そこに現れたのは、確かに大きく長距離を飛行できるのだろうが、その姿は鳥とは言えなかった。
「なんでワイバーンだよ!」
しかも大人が乗れないぐらいの微妙な大きさだ。
こいつも飼育しないとならないとは頭が痛くなった。
気を取り直してワイバーンの足にモバイル端末をくくりつける。
これはシステムコンソールが出した二台目だ。
くくりつけるのは備品倉庫でみつけた粘着テープだ。
画面上部に埋め込まれたカメラを地上に向けるようにと面倒な注文があった。
確かにワイバーン単独では町を認識出来ないかもしれないから、そこは俺が判断してやる必要がある。
ワイバーンと会話を試みたが、ほぼ鳥でおバカだったのだ。
単純命令しか聞きそうにない。
そこでカメラで監視しつつスピーカーで指示を出すことにしたのだ。
「ワイバーン、南へ飛べ」
俺が人差し指で南を指すとワイバーンは空に舞った。
「クワァ!」
ワイバーンを偵察に向かわせると、俺は自分のモバイル端末で映像を確認した。
この端末とワイバーンの端末がなんらかの仕組みで繋がっているのだ。
電波なのか魔法なのかは良く判らないが、画像を受信出来るのはありがたかった。
ワイバーンは森を越え、平原に出て、そのまま南へと向かう。
しばらく進むと東西に延びる街道を発見した。
おそらくその先に町がある。
東か西か、東は200kmほどで川だから、そこまでには確実に町があるだろう。
「ワイバーン、東に向かえ」
「クワ?」
ああ、めんどくさい。おバカで”東”がわからないのか。
南を理解していたのかと思ったら指の方角に向かっただけかい。
この分だと右左もわからないだろう。
俺はどうやって指示を出そうかと思案する。
そして微かに見える川に気付き、そこを目標にすることにした。
「道沿いを川に向かえ!」
どうやら”道”と”川”はわかったようだ。
「クワァ!」
ワイバーンは街道を東に20kmぐらい進み、俺はそこに町をみつけた。
ワイバーンに括り付けられた端末のカメラに映っていたのは、森の側に作られた楕円形の石塀で囲まれた町だった。
「よし、町を見つけたぞ。
ワイバーン、今日は戻るんだ」
ワイバーンは”戻れ”もわかるようだ。
そのまま拠点まで飛んで戻ってきた。
今は俺が作った厩舎と用意された魔物肉――プチが狩ったやつだ――にご満悦である。
中世程度の文明で剣と魔法の世界という俺の要望が叶えられていれば、この世界の交通手段はほぼ馬車だろう。
遺跡の倉庫に装甲車や戦車があったが、あの文明――ガイア帝国――は滅んでしまっていて、そのような車両はもう存在しないようなのだ。
ワイバーンに偵察させた様子からも、街道はまともに整備されておらず、道が悪くて車が走れるようではなかったのだ。
そうなると、この世界で人が1日に移動出来る距離は馬車を使って50km程度になるだろう。
街道にはその50km間隔で宿場町が設置されていると推測される。
つまり街道沿いを進めば400kmの間でも9つの町があるはずなのだ。
ここから近い町で言えば、街道を東へ20kmの町の反対には西へ30kmの町があるだろう。
この街道で一番発展しているのはおそらく川の側にある町だろう。
川は船を使えば貿易の導線になるから発展するはずなのだ。
次に発展が望めるのは街道が交差する交易拠点の町。
まあ、買い物に行くならそういった拠点都市が良いのだろうが、とりあえずは今日発見した町でも下着ぐらいは売っているだろう。
ああ、お金を得るために素材を売る場所が必要か。
もし売る場所がないなら、街道を先に進めばいいか。
「さすがに距離があるな。よし装甲車を直すか」
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