第10話 ゴーレム復活
翌日。牧場仕事と畑仕事のルーティンをこなした後、いよいよゴーレムの修理を始める。
まずは横幅が広く背も高い783号から。
燃料石を入れれば稼働するはずだが、ここで俺は一計を案じることにした。
牧場仕事に武器はいらないので固定武装を全撤去することにしたのだ。
右前腕の内部に装備されていた光学兵器らしきものを外す。
目につく固定武装はそれだけ。
上腕外側、腰側面、両肩、背部に何かを固定するためのハードポイントが付いている。
おそらくオプションの外部兵装があるのだろう。
その外部兵装はあの倉庫には入っていなかった。
俺の生活には不用だし、どうでもいいんだけどね。
あとは力の
命令してソフトウェア的な制限をかけるより、変更不可能な状態で根本的に抑制した方が安心だろう。
俺は制御装置である魔宝石の解析を試みてみる。
あ、この世界には魔
魔
魔
俺は生産の極で魔導具作成や錬金術も極めている。ことになっている。
魔宝石は文字通り宝石に制御魔術式を書き込んだもので、ここまでは魔導具作成の知識の範疇でどうとでもなる。
さらにシステムコンソールのサポートがあれば何とかなりそうだ。
「システムコンソール、ゴーレムの基本ソフ……、いや制御魔術式というものはあるか?
ゴーレムの魔宝石が壊れた時にクリーン……いや新しい魔法石に書き込むようなやつだ」
俺は基本ソフトやクリーンインストールと言おうとして、翻訳が上手く行かす伝わらなかったら困ると思い、あえて言い直した。
『存在します。制御魔術式を端末に転送します』
そういや、システムコンソールからモバイル端末を借りっぱなしだった。
言い直したおかげかどうかわからないが、基本ソフトウェアともいえる制御魔術式をシステムコンソールからモバイル端末へと入手できた。
モバイル端末のエディタで開き、制御術式を視覚化する。
しかし、その中身は大賢者のJOBの能力を以てしてでも未知の魔術式だった。
俺が神様からもらったスキルは異世界言語と異種言語だった。
それがレベルアップして古代帝国語をも理解出来るようになった。
しかし、これには魔術式の言語である魔術言語は含まれていなかった。
魔導の極と生産の極でカンストしたスキルの方に、かろうじて魔術言語が含まれていたが、そこに
この制御魔術式はその古代魔術言語で記述されているのだ。
「はぁ。構文や文法を知らない言語でプログラミングは出来ないよな」
これはお手上げかと諦めかけた時、ふと隣に安置されている230号が目に入った。
その機体はやせ型で小柄、女性的なシルエットを持った機体だった。
230号はゴーレムとしての内部の基本設計は783号と同じだった。
しかし、明らかに非力な別用途の機体だ。
このゴーレムはシステムコンソールが備品倉庫への案内で呼ぼうと思うような軽作業用機体なのだ。
内部を調べた結果、武装も無かったから間違いない。
「もしかして……。230号の制御魔術式はあるのか?」
俺はシステムコンソールに問いかけた。
即座に提出された魔術式を見て俺は喝さいを送った。
「やったぞ!」
その魔術式はモジュール化されていて783号の魔術式と共通部分があった。
おそらく、この部分が基本制御モジュールだ。
783号の魔術式は230号の魔術式にオプション的にモジュールが追加されている。
つまり、これが783号と230号の仕事の差なのだろう。
となると基本制御モジュールの差異部分は、出力制御のパラメータの可能性がある。
俺は783号の基本制御モジュールへ230号のパラメータを移植してみた。
全てではなく出力パラメータだと推定できる部分を選択したつもりだ。
モバイル端末のエディタは、まるでスマートフォンのような捜査方法で数値入力が出来た。
「よし、これを魔法石に書き込めばデチューン版の783号になるはずだ」
モバイル端末にある魔術式の魔宝石への書き換えは、生産の極に統合されていた魔導具作成のスキルが行ってくれた。
後は燃料石を交換し外装を纏わせ、起動命令を与えるだけ。
「管理者クランドが命じる。783号起動開始!」
俺の命令で783号が再起動を始めた。
『システムチェック。出力パラメータエラー。出力が上がりません。
兵装エラー。内部兵装がありません。
このままでは戦闘任務に支障が出ます。修理を要請します』
「出力値はどのぐらいになる?」
『50%と推定されます』
「そのままでも稼働可能か?」
『軽作業には支障ありませんが、戦闘任務には支障が出ます』
「それでいい。783号に新たな任務を与える」
783号が立ち上がり姿勢を正す。
「牧場での家畜の世話を命じる」
『家畜の世話の詳細を求めます』
さてどうするか……。
『問題ありません。映像データを送ります』
引継ぎはシステムコンソールに任せた。
システムコンソールは俺が家畜の世話をしている映像データを783号に送ることで引継ぎを完了した。
俺の世話では生活魔法を使っていたのだが、問題ないのだろうか?
『783号、了解しました。牧場任務に就きます』
これで俺が牧場を離れても大丈夫な労働力を手に入れたぞ。
230号の方は簡単なメンテナンスをして燃料石を交換するだけで再起動させた。
「230号は農場勤務を命じる」
『230号、かしこまりました。農業魔法のインストールを望みます』
同様に俺の作業映像を見た230号が要求する。
「え? 魔法使えるの?」
『はい』
「どうすれば教えられる?」
『一度使ってもらえれば魔法式を読み取ります』
俺は230号と畑に出ると【自動拾得】から【農地耕作】【農地回復】【種召喚】【広域種蒔】【促成栽培】まで魔法を使ってみせる。
朝の作業をもう一回やることになったが仕方ない。
せっかく植えた作物を無駄にしてしまったが……。
「どう?」
『【自動拾得】、【種召喚】は時空魔法不可のため無理です。
【農地回復】、【促成栽培】は能力超過により無理です。
他は一般的な農業魔法ですので、小さな範囲を繰り返せば問題ありません。
しかし、魔力の大量消費が懸念されます。
1日1回の燃料石交換が必要かと思います』
「それなら俺がやった方がいいか。
途中で手を出すより全てを流れでやった方が効率が良さそうだし」
『私はどうしたら……』
「果樹の収穫をお願いしようかな。
時間停止倉庫を建てるからそこへ収穫物を入れてくれ」
『かしこましりました』
俺は周囲を見廻し、空いている土地へ時間停止倉庫を建てることにした。
土魔法で壁を立ち上げ、木材で屋根を葺き、付与魔法で時空魔法を付与した。
そこに魔宝石と燃料石で時間停止機能の制御装置を作り、時空魔法と連動させ魔導具【時間停止倉庫】とした。
こうしてクランドの農園は、783号と230号のゴーレムコンビが働くことになった。
「そういや小さな丘に扉がついただけの外観の出入口も今になるといまいちだな。
そろそろまともな建物にするか」
後は戦車の部品を流用して装甲車を直して、それで町を探しに遠征しよう。
今は侵略国家っぽいガイア帝国の貨幣しか持っていないが、町で魔物素材を売れば現地通貨が手に入るだろう。
「ああ、召喚してまで飼い始めた羊の毛を収穫して服を作るより、町で服を買った方が早かったか!」
後悔先に立たずだった。
いや、異世界の服は着心地が悪いとか、服飾業界に革命を起こすとかラノベの定番じゃないか?
きっと羊は役に立つ。はずだ。
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